コロナ禍で深刻化・不可視化する女性の現実を集めたルポ 評者・後藤康雄
『コロナと女性の貧困 2020─2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』
著者 樋田敦子(ルポライター)
大和書房 1760円
犠牲者が社会的に弱い立場にある事件が後を絶たない。その背後に「貧困」があり、そこに何らかの形で「女性」という要素がからむケースが少なくない。偏見は厳に排すべきだが、シングルマザーはその一例である。本書は、コロナ禍で困窮する女性にスポットを当てたルポルタージュである。
性別にかかわらず、現代においていったん貧困状態に陥ると脱却は容易でないが、女性のほうがその傾向は強い。大きな背景として挙げられるのは、非正規就労の比率が高いなどの労働条件や、家事・育児の負担などである。夫が主導権を握りがちな風潮のもと、ドメスティックバイオレンスにみられるような体力差要因もあって、家庭内の力関係で劣位に立たされることも多い。
本書は女性の社会的脆弱(ぜいじゃく)性を生むさまざまな背景を述べ、それらが引き起こす多様な問題を貧困と関連付け幅広く網羅する。新型コロナが不気味な全容を見せ始めた2020年初頭以降を対象に、取材に基づく多数の事例が時系列で示される。そこから浮かび上がってくるのは、もともと社会的基盤が弱かった女性たちの生活が厳しさを増す姿である。
そうした状況と風俗業界がつながってくるのは想像に難くない。規範や理念とは別に、コロナ禍の長期化で、女性たちがリスクの高い業界に足を踏み入れていく現実が描かれる。このほかにも、生理にかかる諸費用、若年層の中絶の増加、男性より増えている自殺者など、女性固有の問題がつぶさに語られる。
貧困や格差の広がりが社会的問題と認識されて久しいが、さほど追い詰められていない国民がその実態に触れる機会は少ない。理由の一端は我々自身が生活に追われていることにあろう。ただそれだけでなく、本書が述べるように貧困が目につきにくい形で潜行していることも大きい。公園などの公共スペースに暮らすホームレスは激減した。しかし、一見普通の服を着て街を歩き、ネットカフェなどを日々転々とする人々が増えている。日常風景の中で彼らを貧困層とは識別しにくい。筆者がいう通り「ホームレス=段ボールハウス」の時代ではなくなっている。
コロナ禍で深刻さを増す女性の貧困には、社会の深層に根差すさまざまな要素が複雑にからみ合っている。厳しい実態を知るだけで問題は解決しないが、私たちが現実を直視することは大事な一歩である。本書に紹介される社会的セーフティーネットが広く知られて活用され、一人でも多く救われることを願う。
(後藤康雄・成城大学教授)
ひだ・あつこ 明治大学法学部卒業後、新聞記者を経てフリーランスに。女性や子供に関する問題をテーマに取材活動を行う。著書に『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』など。
週刊エコノミスト2022年12月13日号掲載
『コロナと女性の貧困 2020─2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』 評者・後藤康雄