経済・企業2023年の経営者

ギターや音響機器がこれからの成長の原動力――中田卓也・ヤマハ社長

なかた・たくや 1958年岐阜県出身。県立多治見北高校卒業。81年慶応義塾大学法学部を卒業、日本楽器製造(現ヤマハ)入社。2006年に執行役員。米国子会社社長などを経て、13年6月から現職。64歳。(Photo 中村琢磨:浜松市の研究開発拠点「イノベーションセンター」で)
なかた・たくや 1958年岐阜県出身。県立多治見北高校卒業。81年慶応義塾大学法学部を卒業、日本楽器製造(現ヤマハ)入社。2006年に執行役員。米国子会社社長などを経て、13年6月から現職。64歳。(Photo 中村琢磨:浜松市の研究開発拠点「イノベーションセンター」で)

ヤマハ社長 中田卓也

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 新型コロナウイルス禍ではどのような影響を受けましたか。

中田 一時は工場の従業員が出勤できずに生産が進まず、半導体などの部品不足、物流の混乱がありました。何とか楽器の供給は間に合うようになりましたが、半導体など部品点数の多い音響機器は今も生産が遅れており、今期(23年3月期)いっぱいは影響が続きそうです。

── コロナ禍では、需要の変化によるプラス面もありましたね。

中田 「巣ごもり需要」で自宅にいる時間が増え、楽器の需要がかなり伸びました。インターネット回線を介し、離れた場所で音楽合奏できるシステムも注目されましたし、リモートワークが増えたことで、会議システムやスピーカーフォンの特需もありました。こうしたニーズを一過性で終わらせず、持続させたいですね。そのために、音楽教室のオンライン化や、長く楽器演奏を続けられるようなサブスクリプション(定額制)サービスなどを進めています。

── 売り上げの7割近くを占める楽器事業の現状は。

中田 ピアノについては、国内市場はピーク時の30万台から10分の1に縮小しましたが、中国市場は伸び続けています。経済成長や過去の一人っ子政策の影響で「子どもにピアノを買ってやりたい」というニーズがあります。中国は世界のピアノ販売台数の約半分を占める大きな市場で、当社はシェアが約3割あり、今後は高価格帯の販売を伸ばしたいと考えています。

 コロナ禍では、家の中でも演奏しやすい電子楽器のほか、ヤマハの楽器群の中ではシェアが最も低いギターも伸びました。管楽器だけは、感染拡大当初に飛沫(ひまつ)感染の恐れが指摘されたため売り上げが大きく落ち込みましたが、米国政府がコロナ禍でダメージを受けた学校現場を支援する政策を打ち出したことが特需となり、盛り返している状況です。

── シェアが低いギターについては、どう伸ばす方針ですか。

中田 金額シェアに比べて、台数シェアが大きい状況でした。売れ筋が価格が低い普及品なので、販売価格帯を引き上げることが課題です。ギターは米国ブランドの力が強いため全方位で攻めても突破が難しく、まずはアコースティックギターを伸ばす戦略を進めています。アコースティックのシェアは高まり、成果は出ています。徐々にエレキギターにも戦線を広げる考えです。

── スピーカーやヘッドホンなどの音響機器事業はどうでしょう。

中田 業務用はコロナ禍で音楽ライブが減ったり、半導体不足があったりで苦戦しました。アフターコロナに向かいつつある中で需要は戻ってきています。個人向けについては、需要の変化に対応できていない面がありました。今はイヤホンのような、より個人に焦点を当てたものに注力しています。ゲーム配信など配信用機器の需要も高まっており、強化します。

 一方、法人用では音楽以外の製品に注力していきたいですね。需要が高まっている企業の会議システムのほか、大学などの教育現場でも、講義をしながらネットにアップするようなニーズが出ており、対応する機器に力を入れていきます。

車載オーディオに好機

── 残る部品・装置事業はどのような状況ですか。

中田 注目しているのは車載向けです。音楽を楽しむ車載オーディオは中国の自動車メーカーに採用される機会が増え、日本でも徐々に引き合いが来るようになっています。EV(電気自動車)の普及が進めば、車内環境も従来とは違うものが求められるはず。車内の音響空間を制御する技術に好機があると見ています。

── 5月に発表した3カ年の中期経営計画では、25年3月期に売上収益5000億円、事業利益率14%と目標を掲げました。どう実現しますか。

中田 売り上げは新興国中心に伸び、欧米でも伸びる余地があります。成長率は高いが当社のシェアがまだ低いギター、車載オーディオなどの電子デバイス、音響機器事業が成長の原動力になると見ており、成長に資するようなM&A(企業の合併・買収)も積極的に考えたいですね。そのために約300億円の資金を確保しています。悩みの種は最近の物価上昇に伴うコスト増で、注意が必要です。

── 社長就任から約10年です。今後さらに取り組みたいことは。

中田 会社の稼ぐ力はついてきており、コロナ禍においても一定の収益は確保できました。技術を持った人たちが刺激し合い、楽器や事業の垣根を越えて仕事を組み立てることは、かなり進んだと考えています。最後の仕上げは人に対する投資です。働きがいを高めることや、働きやすい組織文化を築くことなどを中計で掲げており、これらの浸透を考えていきます。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A コロナ禍です。生産から販売現場まで全部止まった経験はありませんでしたから。財務状況は良好ですが「まずは資金確保しなければ」と思ったほどです。

Q 「好きな本」は

A 歴史関係の本が好きです。中でも山岡荘八の『徳川家康』は何回も読んでいます。

Q 時間があればしたいことは

A 好きな模型です。2000円ほどのプラモデルでも、塗装などに凝ると2、3カ月かかります。夏休みには飛行機のプラモデル作りが途中で終わってしまいました。


事業内容:楽器事業、音響機器事業、部品・装置事業など

本社所在地:浜松市

創業:1887年

資本金:285億3400万円

従業員数:1万9895人(2022年3月末、連結)

業績(22年3月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:4081億円

 営業利益:493億円


週刊エコノミスト2022年12月27日・2023年1月3日合併号掲載

2023年の経営者 編集長インタビュー 中田卓也 ヤマハ社長

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