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国際・政治 韓国

日本より進んでいる韓国の外国人労働者政策を知る 澤田克己

韓国の外国人労働者政策は日本より進んでいる(ソウルの街中で) Bloomberg
韓国の外国人労働者政策は日本より進んでいる(ソウルの街中で) Bloomberg

 外国人の単純労働者を受け入れる方便として使われてきた技能実習が、開始から30年たってようやく見直される。人権侵害の温床と批判されてきた制度を廃止し、労働者の確保を目的とした新制度を作るという。日本で働けば大金を稼げるとは必ずしも言えない時代となり、韓国など近隣国との労働者獲得競争も激しくなっている。技能実習を参考に同様の制度を作ったものの、19年前に見切りを付けた韓国の状況をあらためて考えてみたい。

国際移住機構から評価される「雇用許可制」

 韓国は1993年、日本をモデルに「産業研修生」制度を始めた。だが、労働者としての権利が保護されない制度には問題が大きいと判断され、2004年には単純労働者だという実態を認める「雇用許可制」に移行した。

 雇用許可制の特徴は、政府管理下での受け入れということだ。政府が各業界からの要望に基づいて、製造業や農畜産業など業種別の年間受け入れ数を決める。その上でベトナムやタイなど労働者を送り出す国と政府間協定を締結し、悪質なブローカーを排除しようとした。

 国際移住機構(IOM)から「先進的な移住管理システムだ」と評価される雇用許可制だが、実際には試行錯誤の面がある。滞在期間は当初、最長で4年10カ月とされたが、期間満了になっても帰らず不法滞在になってしまう人が続出した。そのため一定の条件を満たす場合には、いったん帰国した上で韓国へ戻れる制度となった。改めて4年10カ月滞在できるので、現在は最長9年8カ月にわたって働けることになる。

 2018年には永住を視野に入れた「熟練技能(別名:点数制)ビザ」が創設された。雇用許可制などで一定期間働いた人を対象にしたビザで、年収や保有資産、韓国語能力、納税の有無などで点数を積み上げる。毎年の発給人数が決められており、高得点者からビザを取れる。400人から始まった人数は徐々に増やされており、22年は2000人、23年には5000人となった。

 韓国の外国人政策に詳しく、『移民大国化する韓国』という共著を昨年刊行した聖学院大の春木育美教授は日韓の共通点として、①少子化や高学歴化によって、労働集約型の低賃金職場や中小企業を若者が敬遠する、②非熟練労働者への門戸開放といった政策転換が進められている――ことを挙げる。「移民の受け入れではない」という建前を維持しようとしてきたのも、両国の共通点だという。

 日本の技能実習では自由に職場を移れないことが問題とされるが、韓国の雇用許可制でも転職には一定の条件が課されている。業種を超えた移動はできず、職場を移る回数にも上限がある。どちらの制度も家族の呼び寄せを認めておらず、この点からも「一時的な滞在」という制度設計になっている。

 ただ前述した「熟練技能ビザ」を取得できれば家族の呼び寄せも可能で、春木教授は「事実上の移民受け入れ」だと指摘する。尹錫悦政権は「出入国・移民庁」創設の方針を打ち出しており、「移民」を正面から認める政策転換に踏み出す可能性もある。

中国東北部に150万人の朝鮮族

 韓国で雇用許可制と並行して進められたのが、中国や中央アジアに住む韓国系の人々を労働者として呼び込むことだ。当初は大卒のホワイトカラーなどといった制限付きだったが、2007年に単純労働もできるビザが導入された。バブル景気にわいた日本が南米の日系人に就労可能なビザを出したのと同じ発想である。

 特に大きかったのは、中国東北部で自治州を持っていた約150万人といわれる朝鮮族の存在だった。朝鮮語(韓国語)を日常的に使い、食を含めた生活習慣も近いから、韓国社会になじみやすい。今では、約204万人(20年末)の在留外国人の3割超にあたる約65万人を朝鮮族が占める。

 朝鮮族には言葉の壁がないため飲食店や宿泊業などのサービス業や、家政婦や介護といったケア労働に就いている人が多い。専門職などに就く韓国人女性の場合、朝鮮族女性を住み込みの家政婦として雇い、食事の用意や子どもの世話までを頼るケースが珍しくない。

 ただ朝鮮族の出稼ぎ労働者の3割以上が60歳超で、新たに韓国へ来る人は減っている。韓国で稼いだお金を使って子供には高等教育を受けさせるという人が多いため、朝鮮族の単純労働者は減少していくとみられている。

韓国の「社会統合」政策を学ぼう

 韓国の取り組みで日本と大きく異なるのは、社会統合を進める政策だろう。韓国では07年に外国人処遇基本法が制定され、政府予算による施策が進められるようになった。現在は、外国人の単純労働者を対象にしたワンストップ支援センターの拠点が9カ所、民間委託などで運営する地域センターが35カ所に開設されている。

 センターは、各種の行政サービスや相談、生活支援などに15の言語で対応する。さらに韓国語教室やパソコン講座もあり、ほぼ無料で受講できる。韓国語教室は、韓国語教育の資格を持つ教師による本格的な授業だ。

 そして、春木教授が「韓国のイメージ管理という観点から優れている」と評価するのが「ハッピー・リターン・プログラム」という講座だ。外国人労働者を対象に、帰国後に役立つ職業訓練などを提供する。気持ちよく帰国してもらい、韓国のファンを増やそうという仕組みになっている。

 19年に「特定技能」を新設した日本もワンストップ支援窓口の整備を目標にしてはいるものの、現状は全国で3カ所のみ。日本語教育は地域のボランティアに多くを頼っているのが実情だ。外国人労働者に日本を選んでもらうためには、韓国の取り組みを参考にさまざまな施策を重ねていく必要があるのだろう。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数

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