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韓国ヒョンデ、「エンジン・排気音」が盛大に響く高性能EV「アイオニック5N」を日本で発売
韓国自動車大手のヒョンデが、日本で「エンジン・排気音」のするEV(電気自動車)を発売した。EVは電気モーターで駆動するため、本来ならエンジン作動に伴う音や振動が発生せず、静かなのが特徴だ。しかし、ヒョンデはあえて「音」を出すことで、世の中のクルマ好きの需要を喚起し、EVの普及につなげたい考えだ。
6月5日に発売したのは、「IONIQ(アイオニック)5N」。22年2月に発売したSUV(スポーツ多目的車)型EV、アイオニック5の高性能版で、最高出力は650馬力、最大トルクは770ニュートンメートル、静止状態から時速100キロまでの加速時間は3.4秒。最高速度は時速260キロだ。搭載する蓄電池の容量は84キロワット時で航続距離は561キロとなる。
車の前後と車内に9個のスピーカーを搭載
前後の大型スポイラーや大径のタイヤが目を引くが、最大の特徴はEVにも関わらず、車内外で盛大にエンジン音や排気音が鳴り響くことだ。車内に7個、フロント部分に1個、リアバンパー部分に1個の計9個のスピーカーを搭載した。フロント部分からはエンジン音が、リアバンパーからは排気音が出るようにチューニングされている。室内の音は20段階に調整できる。
6月5日に新横浜にあるヒョンデのサービス・納車拠点で開かれた記者発表会では、アイオニック5Nをドリフト走行(走行方法の一つで、タイヤを横滑りさせながら走る)用に改造した特別車が展示され、記者団に対してエンジン音と排気音を披露した。こちらは、外部用スピーカーを二つ追加し、計11個で、音の大きさは110デジベルに達するという。これは、ヘリコプターの近くにいるときの音量に相当する。
パドルシフトの操作で「ギアチェンジ音」
運転席のステアリングにはパドルシフトが備わる。ドライバーが加速時や減速時にパドルを操作すると、あたかも、エンジン車でシフトアップ、シフトダウンした時のように、車内のスピーカーから「フォン、フォン」とエンジン音を生成する。今回の記者会見では試乗の機会はなかったが、ユーチューブで公開されている自動車系ユーチューバーの試乗動画を見る限りは、まるで排気量2リットルの高性能ターボ車のような音を鳴り響かせている。
ジェット機に似せたエンジン音も
なぜ、「音」なのか。ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)社長は、「ほとんどのEVは直線で速く走ることができる。しかし、当社はモーターがもたらすハイパワーだけではない、感性に訴えるドライブ体験を実現したかった」と説明する。
エンジン音は、①2リットルのターボエンジン、②競技用の高性能EV、③ジェット機に着想を得たソニックブームサウンド――の3種類から選ぶことができる。パドルシフトに合わせてモーターのトルクを制御することで、まるでエンジン車を運転しているような操作感も実現したという。
感性を刺激する三つの要素
同社シニアプロダクトスペシャリストの佐藤健氏は、「アイオニック5Nの真骨頂は、最高出力650馬力の高性能スペックに支えられた操る楽しさ」と強調する。「1967年から半世紀以上、車を作り続けてきた経験から、感性を刺激するには三つの要素が必要と理解した。一つ目は機械を操ることで感じられる反応や微妙な動きなどの『メカニカルフィール』。二つ目が車両を思った通りに操作する『コントロール』。そして、三つ目が『サウンド』」と話す。
ヒョンデは、2012年から世界ラリー選手権(WRC)に参戦し、19年と20年には総合優勝するなど、モータースポーツ分野における活躍には定評がある。そこで培ったノウハウを市販車にも生かすことで、日本におけるブランドイメージを上げる狙いもあるようだ。
試乗体験者130人から手ごたえ
ヒョンデでは、5月に千葉県と大阪府のサーキットで、アイオニック5Nの特別先行試乗会を実施。全国から応募した500人のうち、抽選に当たった130人に試乗してもらった。「車から降りてきた皆さんは、全員が『これ楽しいね』と笑顔だった」(佐藤氏)という。「EVは多分、まだ過渡期だが、感性にきちんと訴える操る楽しさがきちんと揃うと、お客さんの心には響くと思った」と話す。
欧米や中国でEVの普及が進む中、日本での普及率は2%程度と大きく出遅れている。趙社長も、「日本は消費者の要求水準が高く、米国や欧州に比べて難しい市場」としたうえで、「アイオニック5Nが『EVは静かだが楽しくない』という固定概念を打ち崩し、EVの楽しさに関心を持ってもらう呼び水になれば」と抱負を語る。日本での発売に当たり、1年前から車両を日本に持ち込み、首都高速や神奈川県の箱根ターンパイク、極寒の北海道でのテスト走行を重ね、日本に顧客向けにチューニングを施したという。
価格はドイツ車の半分以下
アイオニック5Nの価格は858万円に設定した。佐藤氏は「650馬力を超える車は日本では1000万円以下では買えない。日本で、より多くの人に乗ってもらいたいので、手が届く価格帯にした」と説明する。
同様の高性能EVでは、独アウディの「RS e-tron GT」が最高出力646馬力、0~100キロ加速が3.3秒、最高速度が250キロで性能が近い。しかし、価格は1899万円でアイオニック5Nの倍以上する。
韓国発の「音が出るEV」が日本市場でEV普及の起爆剤になるのか、注目される。(稲留正英・編集部)