大図解・世界経済&マーケット データで分かる!1 世界経済の賞味期限 景気後退まで残り2年=重見吉徳
米長短金利差の事前サイン 景気後退まで残り2年
2009年に始まった米国の景気拡大は、19年6月に戦後最長の120カ月に並ぶ。しかし、米国の景気拡大は終盤戦であり、市場関係者の関心は相場が転換する時期へと移り始めている。世界経済を牽引(けんいん)する米国の景気後退入りは、すなわち世界経済の大きな転換を意味し、市場の混乱に直結するからだ。
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米国の景気後退局面入りを知るための有力な事前サインが二つある。「米国の長短金利の逆転現象」と「ISM製造業景況指数の50割れ」だ(図)。
長短金利の逆転現象とは、短期金利(2年国債利回り)が長期金利(10年国債利回り)を上回る状況を指す。2年国債利回りはいわば向こう2年間の、10年国債利回りは向こう10年間の日々の政策金利の見通しを平均化したもの、あるいは経済成長率の期待値と考えられる。
ごく単純化して言えば、2年国債利回りが10年国債利回りを上回るということは、市場が向こう2年間は利下げはないが、3年後以降には景気後退などの要因により金利引き下げがあると予想している状況を示す。
米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続すれば、家計や企業は資金調達を減らし、投資が抑制される。経済活動は停滞し、インフレ率も抑制されて長期金利は上昇しにくくなる。これまで、長短金利が逆転した1989年、00年、06年の3回は、いずれもその後に景気後退局面入りしている。
もう一つのサインであるISM製造業景況指数も、図にある通り、89年、00年は50を下回った後に景気後退局面入りしている。ISM指数は米製造業者の景況感を示す代表的な指数で、50を超えると「事業は拡大基調」、下回ると「事業は縮小基調」を示唆する。またISM指数の動きには、(1)大まかなピーク水準が存在する、(2)ピークでは長居しない、(3)同程度のスピードで低下する、という経験則がある。
ISM指数は株価と同様、いったんピークを付けると、高値を切り下げながら低下していく。ちなみに08年はリーマン・ショック後の景気後退の最中に50割れしており、「事前サイン」になっていないが、実は「歴史に消された過去」がある。06年11月の実績値は、現在では50・3だが、これは翌年1月に改定されたもので、12月当初に公表された速報値は49・5だった。つまり、この時も景気後退に先立って50割れをしていたのだ。
米国の長短金利の逆転現象とISM製造業景況指数の50割れはいつ起きるのか。過去の平均的な動きをもとにJPモルガン・アセット・マネジメントが試算した結果は、両者とも「19年7月ごろ」。そして、過去はこれらのサインが点灯してから、実際に景気後退に至るまでに1年程度の期間を要している。したがって、景気後退入りのサインまでが1年、その後の景気後退入りするまでが1年で、「米国の景気後退まで、残りは2年前後」ということになる。
株式市場の逆転現象
「景気拡大の最後の2年」に金融市場はどう動くのか。現在の局面は物価の純さを含め00年前後のITバブル期によく似ており、当時の動きが参考になる。
ITバブル期の世界株式は、景気拡大の最後の2年のうち前半1年は株価が上昇、後半1年は下落傾向に転じた。セクター別では、前半1年は情報技術を含む景気敏感セクターの株価が上昇した。また当時の米国市場では情報技術に加えて、小型、値動きに勢いがあるモメンタム、高い成長が期待できるグロース株が優位だったが、これらは過去1年と似た動きだ。
対照的に後半1年は、前半1年に上昇した景気敏感セクターが売られ、ヘルスケア、生活必需品など景気に左右されにくいディフェンシブ銘柄が買われる逆転現象(リバーサル)が見られた。
なお、最後の2年の前半と後半で株式市場の「主役」が逆転する現象は、日本株市場でもITバブル時に同様の現象が起きた。ただし、これまでのところ、日本株と世界株の動きは異なり、当時と最近の日本株の動きも異なるため、ITバブル崩壊前の日本株市場の動向が参考になるわけではない。ただ、反転があるという意味では、景気敏感の半導体セクターなどには注意が必要と言えるかもしれない。
(重見吉徳、JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト)