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ボリス・ジョンソンが「集団免疫」に変わって採用した「ミティゲーション戦略」とは何か=増谷栄一・国際経済ジャーナリスト

記者会見で新型コロナへの対応を説明するジョンソン首相。その後、自身の感染が明らかになった(Bloomberg)
記者会見で新型コロナへの対応を説明するジョンソン首相。その後、自身の感染が明らかになった(Bloomberg)

 英国のジョンソン首相は3月19日の会見で、「英国で感染者へのウイルス薬の治験が始まった」と朗報を披露し、「12週間以内に形勢が変わる。コロナウイルスは荷物をまとめて出ていく」と国民を鼓舞した。しかし、その翌日には英テレビ局スカイニュースが「政府はいつまで危機が続くかは分からないとしている。科学者は1年近く感染抑制対策が必要と助言している」と報じた。コロナウイルスとの戦いはすぐには終わりそうにもない。

 ジョンソン首相が一番心配しているのは感染者の拡大が右肩上がりの急カーブ過ぎて国民医療サービス(NHS)の治療が追い付かず医療崩壊となることだ。それを回避する策として、英政府が当初目指していたのが、免疫獲得者がかなりの数に増えた集団内では感染は拡大しないという「集団免疫」戦略だった。

 しかし、英政府の集団免疫戦略をめぐって連日、英メディアを巻き込む科学論争が起きた。このため、ジョンソン首相は世論に押される形で、3月16日の会見で180度方針転換を発表した。論争のきっかけとなったのは4日前の12日の政府の緊急対策委員会「コブラ」の会合後の緊急記者会見だった。ジョンソン首相は、従来の「封じ込め」戦略から感染拡大のピークを平準化させる「遅延」戦略に移行すると発表した。しかし、その内容は、英国は集団免疫を核とした、いわゆるミティゲーション(緩和)戦略だった。政府は免疫獲得者を増やすため、あえて学校の一斉休校や感染地のロックダウンなど、より強力な措置は取らなかったのだ。

ジョンソン首相も半信半疑

 政府は4段階の戦略を示している。ミティゲーションは感染が社会全体にまん延し、NHSの対応能力を超えた場合の最悪シナリオを意味する。しかし、スカイニュースは16日の放送で、「ジョンソン首相はパトリック・バランス主席科学顧問が率いるSAGE(政府緊急時科学諮問グループ)から得たアドバイス(集団免疫戦略)は感染を遅らせる措置としては直感的にやや理解できなかったものだったと述懐した」と報じた。つまり、首相はSAGEが十分な集団免疫を作れば感染スピードを遅らせられるという助言を当初、半信半疑ながらも受け入れたということだ。

 ジョンソン首相が欧米各国と同様の厳しい規制を取らないのは大衆迎合的な政治的決定とは一線を画すという考えがある。首相は16日の2回目の会見で、「欧米各国の感染者数のグラフは右肩上がりの急カーブだが、英国はまだ初期段階にあるので対応が違う。我々は科学的根拠に基づいて対処している」と釈明している。

 スカイニュースは14日、政府の集団免疫戦略の根拠となったデータをすっぱ抜き、科学論争のきっかけを作った。それによると、SAGA代表のバランス氏は「集団免疫によってウイルス感染を阻止するには人口の6割に相当する約4000万人が感染する必要があり、うち、3200万人は軽症だが、800万人は重篤となる」と政府に説明したという。いかに集団免疫戦略の方が感染者や死者が多く、医療崩壊の可能性が高いかが分かる。ジョンソン首相は3月27日、新型コロナウイルス検査で自身が陽性反応だったと公表した。

■増谷栄一(国際経済ジャーナリスト)

(本誌〈英国、新型コロナで科学論争 集団免疫戦略から方針転換=増谷栄一〉)

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