「コロナで都心部の不動産需要が壊滅」は本当なのか=長嶋修(不動産コンサルタント)
アフターコロナで不動産市場はどう変わるか。連日このような質問が各種メディアから舞い込んでくる。世界が徐々に日常を取り戻し始めたとしても、市場が元通りに回復するにはかなり時間がかかりそうだ。さらに今後第2波がやってくる可能性もあり、見通しは不透明だ。
いうまでもなくホテルや民泊・貸会議室などは壊滅的な状態だ。特にホテルはコロナ前から大阪・京都などを中心に供給過剰感が強かったところに冷や水を浴びせられた格好だ。別用途の不動産へ転換することも難しく、当面厳しい状況が続くことは避けられない。
オフィスは様子見
オフィス需要については、今後どうなるだろうか。実は、これがよくわからない。リモートワーク(在宅勤務)の進展により、出社人数は従来の半分~7割程度で足りると気が付いた企業は多い。しかし、たとえ出社人数がかつての半分であったとしても、いわゆる「密」を避けるために席の間隔を空けて配置する、あるいは2メートル以上離れて着席するといった対策を講じる場合、意外と必要となる床面積は減らないのである。実際、即座にオフィス規模の縮小や事務所移転などの行動に出ている企業はほんの一部だけだ。
コロナによる勤務形態の新しい形を模索しながらも、多くの企業はしばらく様子見で、オフィス規模に具体的な影響が出るのは当面先の話となるだろう。仮にオフィスの床面積が減少傾向に向かう場合は「駅から遠い」「設備が古い」といった弱い物件から空室率が増加、賃料が低下していく流れとなる。
次に住宅について、リモートワークが進展すると、地方や郊外に移転する流れが起きるといった臆測が各メディアにおいて吹聴されている。しかし、そういった動きはただの臆測で終わるだろう。ましてや、かつてベッドタウンと呼ばれた都市近郊への移住は、ほぼ起こらないと考えられる。
5月に発表された人材情報会社学情のアンケートによると、在宅勤務の体験をした結果、20代の7割は「郊外移住」より、プライベートの利便性を重視して「通勤時間をもっと短くしたい」と回答している。理由のトップは「自由に使える時間を確保したい」で、希望の通勤時間の平均は29分という結果が出た。
通勤頻度が減少することで、これまでの通勤時間がいかに無駄だったか痛感したことや、電車に乗ることによる「密」を避けたいといった点も理由に挙げられる。中には勤務先から徒歩圏に住みたいといったニーズまで出てくるだろう。
また、利便性というのは通勤に限ったことではなく、買い物や子育て・学校・病院といった日常生活全般におけるものであり「都心、駅前、駅近」を求める傾向は今後むしろ強化されよう。
(本誌初出 コロナ後も都心駅近需要は変わらず/51 2020・6・30)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立