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経済・企業 商社の深層

バフェットに買わせた大手5商社 配当の底力を5社別に分析してみた

 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社が、大手商社5社の株式を「まとめ買い」したことは、国内投資家や商社業界に驚きを与えた。ただ、5社とも株主還元方針は異なる。その違いを比較したい。

住商、赤字でも配当据え置き

 バークシャーは8月31日、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、丸紅、住友商事の株式5%超を取得したことを明らかにした。発表文で同社は、5社のうち数社については最大9・9%まで買い増す可能性があることや、協業の可能性があることを明らかにした。

 今回の商社株まとめ買いについては「割安株を長期保有するバフェット氏らしい戦略」と言われる。株式の割安感を見る指標として使われるPBR(株価純資産倍率)では、伊藤忠が1・0倍を超えている。

 しかし、他は「解散価値」と言われる1・0倍以下だ。商社経営陣はこの割安感に悩み、株主還元、特に配当には心血を注いでいる。

バフェット氏の思惑は? Bloomberg
バフェット氏の思惑は? Bloomberg

ついに出たマダガスカルの巨額減損

 住友商事は、マダガスカルニッケル事業の大幅減損などで、21年3月期最終損益予想が1500億円の赤字(前期は1713億円の黒字)に転落する。それにもかかわらず、配当は前期比10円減の70円だ。前期は設立100周年の記念配当10円と普通配当70円の計80円だった。今期予想の70円は、実質的には据え置きと見るべきだろう。

 住友商事の配当政策は「連結配当性向30%を目安に、基礎収益やキャッシュフローの状況を勘案の上、配当額を決定」とある。最終損益が赤字に陥っても、配当を実施するのはこの方針にそぐわないように見える。

 ただ、同社の場合、赤字の原因である一過性損失の大半は、事業見通しが従来より悪化したことで資産価値を減らす会計上の措置で、キャッシュフローの大幅流出を伴わない。実際に、21年3月期のフリー・キャッシュフローは1900億円の黒字を見込む。事業リスクや株主資本のバランスも勘案しながら、長期安定配当という基本方針を重視した。

 赤字でも配当実質据え置きというのには、同社の株主還元への執念も感じる。

減益でも増配した伊藤忠と三菱

 伊藤忠商事や三菱商事も、21年3月期は減益予想だが、配当は増額する。

 三菱商事は、19年5月から20年4月に3000億円規模の自社株買いを実施し、配当対象の株式が減った。1株当たりの配当額を据え置くと、株数が減った分、社内に留保されてしまう。そこで、配当総額を据え置き、2円の増配となった。

商社が配当にこだわる本当の理由は?

 00年代に2~3倍だった商社株のPBRは、10年代に入ると急落した。16年半ばには全社が1倍以下に下落した。資源価格の下落で各社が資源事業で苦戦したことが要因だ。16年3月期には、資源事業の大幅減損で三菱商事と三井物産が赤字決算に陥り、商社株が軒並み割安とみなされた。各社の経営陣は市場での低評価に危機感を覚えたとみられ、配当政策をより充実させた。

 たとえば、三菱商事は17年3月期に、配当額を前期よりは減らさない「累進配当」の実施を宣言した。

 各社とも17年3月期に業績は急回復した。この過程で、資源価格の失敗を機に投資規律を厳格化したことや、世界中で投資候補の事業や資産の価格が上昇し、新規投資がしにくい環境でもあったことから、社内に余剰資金を生み出し、株主還元に回ったという事情もある。

自社株買いは上位3社のみ

 配当政策では軒並み「連結配当性向」「下限配当」といった目標値を掲げ、実施している5社だが、自社株買いを巡ってはばらつきが見られる。

 丸紅は、現中期経営計画期間の21年度終了までは自己株取得を実施しない。中計では、ネットDER(純有利子負債倍率=自己資本に対する有利子負債の比率)0・8倍程度になった場合には、キャッシュフローや事業投資見通しを踏まえて機動的に実施する、と前向きだった。しかし、石油・ガスや穀物事業の大幅減損で20年3月期最終損益が1974億円の赤字に陥ったことから、財務体質改善を最優先する。このため、当面の自己株取得凍結を決めた。

 一方、21年3月期最終利益予想4000億円で、業界トップ返り咲きを狙う伊藤忠は「自己株式取得の積極活用」を掲げる。各社がコロナ禍にあえぐ中にあっても、20年6月~21年6月に上限700億円の自社株買いをする。既に56億円分を買い付けた。

長く設定した自社株買いは誰のため?

 1年という自社株買いの期間について、伊藤忠は「株価やキャッシュフローの状況を総合的に勘案しながら機動的に対応する方針の下、当社株を長期保有いただいている株主にとってもメリットになると考える」と説明する。

 どういうことか。

 短期で自社株買いを実施すると、株価が高値に振れても買わざるを得ない局面が出てくる。結果的に高値づかみとなり、現金が流出した割には少ない株式しか取得できないリスクをはらむ。これは長期保有株主の不利益にもなる。

 これに対して、自社株買い期間を長く設定して、株価が高い局面での実施を避け、そのほかの局面で実施するということが「機動的に対応する」の意味するところとみられる。

天然ガスに注目するバークシャー

 バークシャーは9・9%までの買い増し可能性について言及している。

 買い増すのが伊藤忠ならば、商社の中では高い成長性や、生活産業での功績を評価したと見るのが素直な見方だ。

 三菱商事ならば、配当利回り、裏返せば株価の割安感を評価したということかもしれない。バークシャーは7月、天然ガス輸送・貯蔵事業の買収を発表している。三菱商事の天然ガス事業との協業を模索するのかもしれない。

 三井物産もモザンビークなどで天然ガスの大型開発事業を持っている。バークシャーが買い増した場合は、三井物産の天然ガスをはじめとする資源・エネルギー事業を評価したととらえられる。 今後、いずれかの商社の株式を買い増した際、5社の事業構造、配当政策、自社株買いの違いと突き合わせると、バークシャーの狙いが見えてきそうだ。(種市房子・週刊エコノミスト編集部)

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