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教養・歴史 小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

「好きでゲイになったのに差別するな」はおかしい? セクシャリティとアイデンティティの倫理について学ぶ

 Q 性的少数者(LGBTなど)は理解できるが、無責任な「ゲイになろうかな」との発言には違和感

 A 性認識の選択と差別の許容は別問題。セクシュアリティーはアイデンティティーと考えては

 LGBTへの理解が深まり、私の会社でも採用時に性別を聞かないとか、同性婚を認める規定ができました。ただ、多様な性のあり方があるのはわかるのですが、先日若い社員が自分もゲイになろうかなと言っているのを聞いて少し違和感を覚えました。性は選べるものなのでしょうか?

(製造業勤務・49歳男性)

性的少数者の権利を保護する動きは、ようやく日本でも本格化しつつありますね。

結婚制度の整備などはまだまだ先ですが、人々の間で、例えばゲイであることがタブー視されるような風潮は、なくなりつつあるように思います。

本人の性的指向や心と体の性別の不一致は、自分ではどうしようもない生まれつきのものだから、それによって差別されるのはおかしいと考える人が増えてきたからです。

たしかに誕生日や血液型を選べる人がいないように、それはもう生まれた時からの性認識であれば、当然なのです。

ただ、中には自分のセクシュアリティーを自分の好みで選ぼうとする人もいます。

あるいは成人後などに、自分はゲイであると主張して生きていきたいという人もいるかもしれません。

その場合の問題は、生まれ持った性認識ではなく、いわば好みや便宜上なので、論理的には権利を保護する必要がないようにも思える点です。

性認識はタグ

もしかしたら、相談者の違和感もそこにあるのかもしれません。

そこで参考になるのは、イギリスの倫理学者ブライアン・D・アープです。

彼は本来セクシュアリティーはアイデンティティーなので、自分で選んでいいのだと言います。

しかも性という本来は複雑なものを、わかりやすく男とか女とかゲイとか、タグ(札)のようにしているだけだと言います。

だとすると、どのタグを選ぶのも自分次第ということになります。

しかし、そのセクシュアリティーの選択と、差別が許容されるかは別問題であると指摘します。

そもそも法が人々の権利を保護しているのは、自分で物事を選べなかったからではなくて、生まれつきの性認識自体が守られるべき価値を持っているからです。

相談者も、セクシュアリティーにかかわらず、社会が決めている分類なんてわかりやすさのためのタグ、あるいは名前みたいなものだと思ってみてはどうでしょう

私の姓は小川ですが、小さい川という意味とは直接関係ありません。

そんなふうに考え、今後、議論を尽くして世論の熟成を待ちつつ、現在の違和感に対する答えを見つけるのはいかがでしょう。

(本誌初出 性的少数者(LGBTなど)は理解できるが、無責任な「ゲイになろうかな」との発言には違和感/58 20201201)

(イラスト:いご昭二)


ブライアン・D・アープ オックスフォード大学やエール大学を拠点に活躍する気鋭の倫理学者。認知科学からセクシュアリティーまで分野横断的に研究を展開している。


【お勧めの本】

『Philosophers Take on the World』(edited by David Edmonds)。未邦訳。アープなどが新しいテーマに挑んでいる


読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp


 ■人物略歴

おがわ・ひとし

 1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。

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