教養・歴史鎌田浩毅の役に立つ地学

磁石はなぜ北極と南極を指すのか? 意外と知らない「地磁気」の話

そのため、コンパスを用いるとコンパスのS極が南極を、N極が北極を指し示し、方角を知ることができる。

地球の歴史を振り返ると、北極と南極は何度も入れ替わっている。

地球は「地殻」「マントル」「核」という三つの部分から構成されるが、地磁気はいちばん深部にある核から発生している。

地球の中心には内核があり、それを取り囲むように外核がある。

いずれも鉄やニッケルの合金からなるが、内核は固体、外核は液体でできている。

内核と外核はセ氏5000度を超える非常に高温で高圧の物質で、外核が液体であることが地磁気を生みだす重要な条件となっている。

外核はさらに上にあるマントルによって冷やされ、下にある内核によって暖められる。

その結果、外核をつくる液体の金属は、絶えず対流を起こしている。

そして、液体金属である外核が対流すると、電子が移動するため「電流」が発生する。

この電流によって、地球を1個の巨大な磁石とする磁場、すなわち地磁気ができあがる。

これは電流が流れると磁場が発生する「電磁石」の原理である。こうしてできた磁場は地球内部を貫き、地表の至るところで地磁気として観測される。

外核の対流は地球の自転によって開始する。

「ダイナモ(発電機)理論」と呼ばれる説であり、いったん対流による電流が生じると、新たにできた磁場によって最初の電流が強化され半永久的に持続する。

「電流が流れると磁場ができる」(アンペールの法則)→

「磁場ができると電流が発生する」(電磁誘導の法則)→

「電流が流れると磁場ができる」

という繰り返しによって、地磁気は現在まで維持されてきた。

年々弱まる地磁気

その後、1990年代にはスーパーコンピューターを用いた超高速計算により、地球ダイナモがどのように変化してきたかが分かってきた。

例えば、過去の地球では地磁気が逆転したことがあり、地磁気の北極と南極が何十回も入れ替わってきた(図)。

安定した地磁気は数十万年ほど過ぎると不安定になり、次第に磁場が弱まりゼロになる。

その後、地磁気の逆転が起こり、しばらく逆転期間(逆磁極期と言う)が安定して続く。

さらに数十万年が過ぎると再び不安定になり、元の状態に戻って安定する。

地磁気は宇宙に充満する有害な宇宙線などから地球を守っているが、その強さは一定ではなく、過去200年に約9%弱くなった。

欧州宇宙機関(ESA)は南大西洋にある磁場の弱い異常帯がときおり活発化することを報告している。

こうした地磁気の弱化は、人工衛星や宇宙船の運航に致命的な誤作動をもたらす恐れがある。

ハッブル宇宙望遠鏡や国際宇宙ステーション(ISS)は異常帯の上空を頻繁に通過しており、国際通信に不具合が生じたり宇宙船内の人間が強力な放射線にさらされたりする危険性が指摘されている。

(本誌初出 巨大な「磁石」の地球 何度も逆転した「北極」と「南極」/29 20201201)


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。

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