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五輪開催で支持率回復を狙う?菅首相が秋解散の「背水の陣」を敷くワケ

    五輪「断行」後に状況が一気に好転すると考えている?(首相官邸で1月8日)
    五輪「断行」後に状況が一気に好転すると考えている?(首相官邸で1月8日)

    菅義偉内閣の支持率が急落し、「これでは10月までにある衆院選を戦えない」と自民党内で「菅降ろし」が始まるとの観測がある。

    政局の幕は上がるのか。

    4月解散説

    1月5日、下村博文自民党政調会長がBSフジの番組で、4月25日投開票の衆院・参院両補欠選挙について「両方負ければ、菅政権にとって大ダメージになる。その後政局になる可能性もある」と述べた。

    衆院北海道2区は金銭スキャンダルで辞職した自民党の吉川貴盛元農相の議席を争う。自民党には逆風だ。

    参院補選は新型コロナウイルス感染で急死した立憲民主党の羽田雄一郎氏の後任選びで「弔い合戦」の野党に有利だ。

    さらに下村氏は「補選の時に衆院選もあるかもしれない」と踏み込んだ。菅首相が2敗を恐れ、一気に衆院解散で勝負に出るかもしれないという見方である。

    番組後、記者団に「菅政権は大丈夫かということが出てこないとは言えない」と党内の疑心暗鬼を代弁。翌日の記者会見でも「勝つと負けるとではその後、大きな政治の流れが変わる」とダメ押しした。

    森山裕国対委員長が「選挙に負けたから政局になることはあり得ない。解散は首相のご判断だ」と否定したが、そもそも下村氏は菅氏の真意を知り得る懇意な関係とは見られていないだけに、あえて「菅降ろし」をあおろうとしたと勘繰られたのも無理はない。

    昨年9月の自民党総裁選で、下村氏は立候補の意思を表明。細田派が安倍晋三前首相の「継承者」として菅氏支持を決めたため、不本意ながら出馬を見送った。

    党三役への起用は、菅氏が最大派閥・細田派を取り込むと共に、初当選同期の下村氏をなだめ、野心を抑えるための人事と見られた。

    それでも菅氏と下村氏のよそよそしい関係は、昨年末の後期高齢者医療費負担増を巡る連立与党内調整のてんまつで明らかだ。

    下村氏は公明党との協議を「負担増は総理の意向だから」と早々に事実上放り出し、党首会談に棚上げした。

    他の政策でも下村氏は独自のスタンドプレーが目立ち、政権を支える本気度が薄い。

    下村氏は安倍氏の側近だ。その安倍氏は11月、野田聖子幹事長代行や岸田文雄元政調会長ら初当選同期との会食で「私だったら1月に衆院解散する」と放言。

    首相在任中はあれほど慎重だった解散権への野放図な言及は、当時既に東京地検特捜部の捜査が進んでいた「桜を見る会」前夜祭問題の窮地を念頭に、自分を真剣に守ろうとしない菅首相をけん制する意図がにじんだ。

    菅氏は安倍発言に神経質になり、珍しく首相官邸の昼食に二階俊博幹事長を誘って政治日程をすり合わせたほどだ。

    「秋」は本音?

    そもそも菅氏は1月4日の年頭記者会見で、コロナ対策と経済対策に全力・最優先で取り組むと強調し、「いずれにしろ秋のどこかで衆院選を行わなければならない」と述べた。

    「時間の制約も前提にしながらよくよく考えた上で判断したい」とも語った。

    「秋」となれば、9月5日の東京パラリンピック閉会後、9月末の総裁任期前後に限定される。

    会見後、官邸報道室は首相発言を「秋までのどこか」に訂正したが、後の祭り。本音を漏らした、というのが政界の大方の受け止めだ。

    下村氏の4月解散説は、その翌日。発言を知った菅氏は、11月の安倍発言が伏線の焼き直しと聞いただろう。4月解散自体が政権の起死回生策というより、どうせ議席を減らすと見越して菅氏の責任を問う「菅降ろし」の布石だ。

    それでは補選と抱き合わせの「追い込まれ解散」と変わらない。

    「何カ所か時機がある」(10日のNHK番組・菅首相)といっても、秋までは他に7月の東京都議選とのダブル選挙しかない。

    公明党・創価学会が全国組織を一極総動員する時期の衆院選は、強行したら連立与党の大幅議席減につながりかねない。

    いずれにせよ菅首相は既に秋の衆院選へ退路を断った。

    背水の陣を敷く首相はしぶとい。たとえ安倍氏と麻生太郎副総理兼財務相が退陣を迫っても、辞めさせるのは容易ではない。

    ところで、首相側近議員によると、菅氏は決して秋を「追い込まれ解散」とは考えていないようだ。

    どんな形式・内容であれ東京五輪を行えば、世論は結果オーライで「やって良かった。菅さんよくやった」と必ずや一気に好転すると確信しているからだという。

    この状況で開けるのか、というのは愚問らしい。

    東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会のツートップは年明け、各メディアで繰り返し断言している。

    「もう中止はできない。再延期もない。無観客でも工夫してやるべきだ。野球やサッカーは工夫してやっている」(森喜朗会長)

    「無観客は望ましくはないが、観客がいなければできないとは考えていない。コロナは既に想定内。徹底的な対策を講ずれば開催可能と確信している。やるとなった以上、五輪の価値を東京で実現する」(武藤敏郎事務総長)

    五輪の意義は、「震災復興」から「コロナに打ち勝った証し」を経て、今や「コロナでも開催の歴史的偉業」に変わっているのだ。

    「大ばくち」には違いない。だが、「ばくち打ち」こそは「政治家・菅義偉」の本性である。

    (伊藤智永・毎日新聞専門記者)

    (本誌初出 五輪後解散の“大ばくち” 退路を断った首相の「しぶとさ」=伊藤智永 20210126)

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