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緊急事態宣言のダメージは甚大……日本経済は「マイナス成長へ突入」する

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は1月7日、緊急事態宣言を再び発令した。

日本経済は2020年5月下旬の緊急事態宣言解除後、持ち直しの動きを続けてきたが、この流れがいったん途切れることは確実となった。

前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊行施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。

また、対象地域も東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県に限られている(GDPに占める割合は34%、1月12日時点)。

これらのことを踏まえれば、経済への悪影響は前回の緊急事態宣言時よりも小さくなる可能性が高い。しかし、それはあくまでも緊急事態宣言の内容がこのまま変わらないとした場合だ。

振り返ってみれば、菅義偉首相は就任以来、景気刺激策「GoToキャンペーン」に象徴されるように、経済を動かすことに積極的で、緊急事態宣言の発令には慎重な姿勢を示してきた。

だが、20年12月に「GoTo」の一時停止に踏み切った後、年明け早々には緊急事態宣言を決断するなど、短期間でその姿勢は大きく変化した。今後の感染状況次第では、規制の対象や地域が大きく広がる可能性は否定できない。

実際、前回の緊急事態宣言でも、当初は7都道府県に限定されていた対象地域がその後全国に拡大され、期間も延長を余儀なくされた。

もともと冬は風邪が流行する季節で、インフルエンザは1月下旬から2月にかけて患者数のピークを迎えるのが一般的である。

緊急事態宣言による自粛が感染拡大抑制にどこまで効果があるかは不透明だ。1カ月とされている期間が延長される可能性は、それほど低いとはいえない。

耐久力は落ちている

国内総生産(GDP)は20年4~6月期に実質で前期比年率29・2%減と過去最大のマイナス成長となった後、7~9月期は同22・9%の大幅プラス成長となった。

10~12月期も年率5%程度と高めの成長を確保すると予想しているが、21年1~3月期は個人消費の減少を主因としてマイナス成長が避けられないだろう。

経済活動の制限自体は前回の緊急事態宣言時より限定的だとしても、経済の耐久力が当時よりも大きく低下していることには注意が必要だ。

たとえば、法人企業統計の経常利益はコロナ前の水準を2割以上下回っており、特にコロナの影響を強く受けた宿泊業、飲食サービス業は20年1~3月期から3四半期連続で赤字だ。

緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増えるリスクは高くなっている。

日本経済は重い足取りながらも正常化に向かって進んでいたが、緊急事態宣言の再発令によって振り出しに戻ってしまった。

08年のリーマン・ショック後は、実質GDPが元の水準に戻るまでに5年を要した。12月時点では、3年程度(22年度中)でコロナ前の水準を回復すると予想していたが、リーマン・ショック後以上の時間を要する可能性が現実味を帯びてきた。

(斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査部長)

(本誌初出 緊急事態宣言で再びマイナス成長へ=斎藤太郎 20210126)

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