アメリカで「ジャパニーズ・クズ絶滅事業」が展開されているワケ
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、近隣の公園への散策は大きな楽しみだ。
米国には、グランドキャニオンやイエローストーンなどの国立公園ほどではないが、州や郡が整備している自然豊かな公園や里山がたくさんある。
特にワシントンDC周辺は、桜で有名なポトマック川が流れ、ハイキングやトレッキングを楽しめる場所が多い。
週末になると、川べりや近隣の山で、マスクをした人々が間隔を空けながらアウトドアライフを楽しむのだが、時として、日本人としてあまりいい気持ちがしない場所に出くわす。
それは、「ジャパニーズ」が付く外来種植物や虫が実にたくさんあるからだ。
いつも使う近所のハイキングコースには、「ジャパニーズ・クズ絶滅事業」という看板が立つ。
日本では、くず粉や漢方薬の原料として知られる多年生の雑草「クズ」は、1800年代後半に日本から緑化目的で米国に持ち込まれた。
その後、米国内で増殖に歯止めがかからず、草原や森林の植生を塗り替えてしまった。
今や、自動車や建物、電線までもあっという間に覆い尽くしてしまう「グリーンモンスター」として恐れられている。
コガネムシは「ジャパニーズ・ビートルズ」と呼ばれる害虫だ。
「マメコガネ」が1900年代初頭に輸送物資に紛れて持ち込まれ、以来、天敵のいない米国内において急速に分布を拡大し、大豆やトウモロコシなどの農作物に深刻な被害を与え続けている。
最近では、「ジャパニーズ・スティルトグラス(日本語名アシボソ)」という、かよわそうな日本名の植物が、米国北東部を荒らしている。
「ジャパニーズ・スティルトグラスの退治法」という動画もネットで数多く出回っている。
「ジャパニーズ(もしくはアジアン)・ジャイアント・ホーネット」と呼ばれるオオスズメバチは「殺人バチ」の異名も持つ。米国の養蜂場でハチを殺して害を及ぼしているというニュースも目に付く。
「ジャパニーズ・××」と連発されて、日本人としては肩身の狭い思いがする。クロスワードパズルの定番として日本の外来種の名前があることからも、相当、米国社会に根付いている。
対外来種「ポリス」も
外来種に敏感になりつつある米国人の間で、最近「プラント・ポリス」が静かに広がっている。
近所の庭に植えられている外来種の草木を見つけ、伐採し、元来その地域に茂っていた植物を植えるよう指導するグループである。
地元の自然を見直そうという動きも盛り上がっている。
「プラント・シティー・チャレンジ」は、住民が道端や公園で見つけた植物、花、チョウなどを挙げて、いかに自分の住む場所が自然にあふれているかを紹介するコンペで、人気が高まっている。
コロナ禍で遠距離の移動ができない米国市民は、自分の住む町の自然に目を向け始めている。
バイデン新政権では気候変動への対策が優先課題であり、自然回帰の風潮がますます強くなると予想される。
自然への意識が高まる中、「ジャパニーズ」で連想されるのが有害な外来種ではなく、「環境にやさしいもの」となってほしい。日本人として切な願いだ。そのために、日本産業界の環境技術にできることがありそうだ。
(小林知代・ワシントンコア代表)
(本誌初出 日本からの外来種 被害及ぼす植物や虫=小林知代 20210126)