対中強硬姿勢はポーズ?中国とEUが投資協定に合意の怪
中国と欧州連合(EU)が昨年12月30日に7年越しの懸案だった包括的投資協定(CAI)の締結に基本合意した。
『人民日報』(電子版)は翌31日、「人々を喜ばせる新年の贈り物」と合意を手放しで称賛したが、米国は警戒を強めている。
合意は中国の習近平国家主席とEU首脳とのテレビ会議で確認された。
EU側からは昨年後半のEU議長国だったドイツのメルケル首相、マクロン仏大統領、フォンデアライエン欧州委員長、ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)が参加した。
年末ぎりぎりの合意は今秋の引退を前にしたメルケル氏が主導したとされる。
ドイツはフォルクスワーゲンなど自動車産業が中国市場で存在感を示してきた。合意では自動車産業の合弁会社の要件を段階的に廃止するほか、電気自動車など新エネルギー車の市場も開放される。
中国にも当然、政治的打算があったろう。
昨年11月には米国の同盟国である日韓やオーストラリアを含む地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。それに続く欧州との合意で米国に対して優位に立とうという思惑がうかがえる。
すぐに合意を批判したのがトランプ政権有数の中国通で、対中強硬策の立案に関わってきたポッティンジャー米大統領副補佐官(当時)だ。
同氏は30日に「米政府、議会の指導者はEUが新政権発足前夜に新投資協定に動いたことに当惑している」と述べた。
米『ワシントン・ポスト』紙は社説(1月2日)でトランプ政権がEUとの関係を悪化させたことが遠因と指摘しつつ、「中国が米国と欧州の間にくさびを打ち込んだ」と評し、バイデン次期政権に欧州との関係修復を急ぐように求めた。
バイデン政権で大統領補佐官(安全保障担当)を務めるサリバン氏は合意前、EUに対中国政策に関する早期の協議を求めていたが、はしごを外された形になった。
米ハドソン研究所のデュスターベルク氏は『フォーブス』誌(電子版)への寄稿(1月4日)で合意を「バイデン氏にとって外交政策の最初の頓挫」と評した。
人権弾圧への懸念
EU側にも香港や新疆ウイグル自治区での人権弾圧に対する懸念が根強く残る。
中国は強制労働を禁止する国際労働機関(ILO)条約の批准に向けて努力することを約束したとされるが、中国は強制労働の存在自体、認めていない。約束がきちんと実行されるかを疑問視する声も多い。
発効には欧州議会の承認が必要だ。年明け早々、香港で民主派多数が逮捕され、欧州議会にも合意を承認すべきではないという声が広がっている。EU執行部は早期の承認を目指すが、曲折も予想される。
ブリュッセルに本拠を置くロシア欧州アジア研究センターのテレサ・ファロン所長は外交サイト「ディプロマット」への寄稿(1月4日)で合意を「中国の勝利」と位置づけた上で「EUと米国の協調が中国に対するテコになる」と指摘し、バイデン政権発足後の変化に期待を寄せた。
サリバン氏は米CNNのインタビュー(1月3日)で中国を「戦略的な競争相手」と呼び、貿易だけでなく、技術や人権、軍事など幅広い分野で欧州やアジアの同盟国と協調する姿勢を示した。
米中の綱引きが決着したわけではない。むしろ1月20日のバイデン大統領就任後に本格化するともいえそうだ。
(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)
(本誌初出 中国とEUが投資協定合意 はしご外された米国が警戒=坂東賢治 20210126)