ミャンマー政変 「窮地」の国軍が実行 経済制裁は不可避に=酒向浩二
ミャンマー国軍が2月1日未明、アウンサンスーチー国家顧問兼外相を筆頭に、与党・国民民主連盟(NLD)幹部を拘束し、クーデターに踏み切った。NLDは昨年11月の総選挙で圧勝。同日は国会が開かれ新大統領などの選出が予定されていたが、クーデターによりNLD政権は2期目の発足直前に座礁した。
国軍は同日、期限1年間の非常事態宣言を発令し、国軍出身のミンスエ副大統領が、暫定大統領になることを宣言。再度総選挙を行い、政権移管するとしている。国軍は、昨年の総選挙で国軍基盤である連邦団結発展党(USDP)が劣勢となったことから、総選挙で不正があったと主張してきた。
しかし、総選挙は海外から監視団が入って行われるなど正当に実施されており、国軍のクーデターの狙いがNLDの排除であることは明白だ。スーチー氏が国軍の関与を削(そ)ごうと憲法改正の姿勢を示す中、総選挙結果を受け入れれば政権運営を半永久的に担えなくなるという焦燥が、クーデターにつながったと考えられる。
ミャンマーは長らく軍政が続き、鎖国状態にあった。1988年に民主化を求める動きが強まりスーチー氏を指導者とするNLDが発足、90年に行われた初の総選挙ではNLDが圧勝したが、急進的な民主化を恐れた国軍は総選挙結果を反故(ほご)にした。
変化があったのは2008年で、国軍は議席の4分の1を軍人枠とする新憲法を発布してUSDPを立ち上げた。10年に総選挙を行って圧勝し、11年から国軍主導の改革を始めた。しかし、スーチー氏が解放されてNLDが選挙に復活すると、15年と昨年の総選挙ではNLDが圧勝し、国軍は民意を得られなかった。
「優遇」見直しも
今回のクーデターを受け、民主主義の順守を求める国際社会の対応は厳しいものとなりそうだ。バイデン米大統領は「民主主義と法の支配への移行を直接攻撃するものだ」として国軍を非難する声明を発表。制裁措置の「復活」について言及した。米国は長年、ミャンマーの国軍関係者や企業との取引を禁じてきたが、民主化の進展を評価し、16年に制裁の多くを解除していた。
欧州連合(EU)の反応も厳しい。EUのミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は、「クーデターを強く非難する」とする内容をツイッターに投稿。今後、EUはミャンマーに付与している輸出税制優遇の適用を取り消す可能性がある。そうなればミャンマーの主要輸出品である縫製品の対EU輸出の競争力の低下が懸念される。非常事態宣言下の1年は、政治だけでなく経済の面でも試練の1年となりそうだ。
(酒向浩二・みずほ総合研究所上席主任研究員)