テスラが大幅値下げ モデル3は実質300万円台に 日本メーカーは追随困難か=湯進
テスラモーターズジャパンは2月17日、電気自動車(EV)の「モデル3」の価格改定を発表した。スタンダードレンジプラス(シングルモーター)はこれまでの511万円から429万円(16%引き下げ)、ロングレンジ(デュアルモーター)はこれまでの655万2000円から499万円(同24%)となる。エコカー減税や補助金制度などを組み合わせると、実質的な購入価格は300万円台からになり、業界に波紋を広げている。
驚愕(きょうがく)の値下げの理由は、日本仕様のモデル3がテスラの中国・上海工場「ギガファクトリー3」で生産されていることだ。車載電池は、従来のパナソニック製電池(円筒型ニッケル酸リチウム)ではなく、中国・電池最大手CATL製電池(角型リン酸鉄)及び韓国・LG化学南京工場製電池(円筒型三元系)を搭載する。
日本の代表的なEV、日産自動車「リーフ」と変わらない価格になっており、日本の完成車メーカーにとっては、いきなりの値下げで販売拡大を図るテスラに追随するのは難しい。
年間の最大生産能力55万台の巨大工場ギガファクトリー3は、2019年末からセダンタイプのモデル3を、今年からはスポーツタイプ多目的車(SUV)タイプの「モデルY」を生産し始めた。
テスラはすでに、中国で構築した直販モデルの受注状況に応じて数回の値下げを実施している。20年10月1日には中国製モデル3の販売価格を引き下げ、政府のEV補助金を控除後、400万円を切る価格で販売された。発売当初(19年10月)に比べわずか1年間で140万円の引き下げとなっている。
進むコストダウン
テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は「中国消費者に手が届くマイカーを製造するために尽力する」という方針。テスラが今後EVの販売価格をどこまで引き下げてくるかが、競合各社の最大の関心事だ。
生産設備の導入を含む上海工場の建設コストは、同社米国工場の3分の1に過ぎない。またモデル3の部材費、人件費、設備償却費を計算すると、中国製モデル3の生産コストは米国製に比べて2割安い。
テスラは中国での部品調達率を昨年末から100%に引き上げ、さらなるコストダウンを図ろうとしている。引き続き、外資系サプライヤーを採用しているものの、地場系サプライヤーの名前がかなり目立ってきている。生産規模の拡大によるスケールメリットが出れば、テスラには車両価格が300万円まで下げる余地が残されるだろう。
脱炭素化に向けて需要拡大が見込まれるEV市場は、価格競争の激化が想定される。テスラはコストダウンを通じて日本の大衆車市場を攻めようとしている。
23年には自社設計の新型電池「4680」を搭載する2万5000ドル(約260万円)の低価格EVを計画通りに投入すれば、既存EVブランドだけではなく、ガソリン車ブランドにも大きな脅威となる。「テスラ旋風」が日本の自動車市場に本格的に風穴を開ける様相が、いよいよ現実味を帯びてきた。
(湯進・上海工程技術大学客員教授)