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教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

もう一つの「2035年問題」 高齢日本を襲う南海トラフ巨大地震/174 

 近未来の日本は「2035年問題」に直面している。65歳以上の高齢者の人口が総人口の3分の1を占め、社会保障などに大きな影響を及ぼす時期である。団塊世代が85歳以上となるタイミングでもあり、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2035年に85歳以上人口が1000万人超と、10人に1人の割合になる。

 実はもう一つ、日本列島はまったく別の「2035年問題」にも備えなければならない。11年に起きた東日本大震災の約10倍の被害をもたらす「南海トラフ巨大地震」の発生が予測される時期である(本連載の第110回を参照)。この2035年は海で巨大地震が起きると陸の地盤が規則的に上下する現象から導かれる。

 南海トラフで発生した過去の巨大地震について、高知県の室津港で観測された地震前後の地盤の隆起量を見ると、1707年の「宝永地震」では1.8メートル、1854年の「安政南海地震」では1.2メートル、1946年の「昭和南海地震」では1.15メートルそれぞれ隆起した(図)。

 こうした現象は、海溝型地震(プレート境界にある海溝沿いで発生する地震)による地盤沈下からの「リバウンド隆起」と呼ばれている。1回の地震で大きく隆起するほど、次の地震までの時間が長くなる規則性があるので、これを利用すれば次に地震が起きる時期を予測できる。

 1946年のリバウンド隆起は1.15メートルなので、次に南海トラフ巨大地震が起きるのは2035年ごろとなる。ちなみに、現在の地震学では巨大地震の発生年月を特定して予知することはまったく不可能である。よって、この中央値にそれぞれ前後5年の誤差を見込んで、2030~40年にはほぼ確実に起きると地球科学者は考えている。

予測可能な唯一ケース

 さらに、地震の活動期と静穏期の周期から、次の発生時期を推定する方法がある。これまで、海溝型の地震発生の40年くらい前と、発生後の10年くらいの間に、西日本では内陸の活断層が動き地震発生数が多くなってきた。なお、現在は1995年の阪神・淡路大震災発生から地震活動期に入っている(本連載の第12回を参照)。

 これを利用して次に来る南海トラフ巨大地震を予測すると、2030年代後半の38年ごろと予測される。この、38年という時期は、南海トラフで起きる巨大地震の休止期間を考えても的外れではない。前回は1946年であり、前々回の1854年から92年後に発生した。1946年に92年を加えると2038年となるので、可能性の高い数字である。

 こうした複数のデータを用いて、次の発生時期は2035年を中央値とする2030~40年と予測される。これまで約100年おきに規則正しく発生してきた履歴を考えれば、2030年以降はいつ起きてもおかしくない。地殻変動や火山活動が活発なプレート境界の「変動帯」で、世界を見渡しても次の巨大地震が予測できるケースは他にはない。貴重な「虎の子」の情報を生かして、しっかりと備えたい。


京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏
京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏

 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2024年2月20・27日合併号掲載

鎌田浩毅の役に立つ地学/174 もう一つの「2035年問題」 高齢化した日本を襲う巨大地震

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