“戦国時代”さながら乱立 果てしなきサービス競争=編集部
キャッシュレス決済サービスが、“戦国時代”さながらの様相だ。先行していたのは非接触ICを使ったキャッシュレス決済サービスだが、ここ最近は後発のバーコードやQRコード(二次元コード)による決済(以下コード決済)サービスにさまざまな事業者が参入し、大規模な利用者還元キャンペーンを展開。非接触ICも利用者増に向けて急速に巻き返しており、激しいサービス競争を繰り広げている。
フリーマーケットアプリ大手メルカリの子会社、メルペイは2月13日から、同社のスマートフォン決済サービス「メルペイ」を、NTTドコモが展開する非接触IC決済サービス「iD」で使えるようにした。メルカリでは利用者が商品を販売した際の売上金は、メルカリの中で再び商品を買ったり、指定の銀行に払い出す以外、一般の店舗などでは使うことができなかった。今回のサービス開始により、売上金を使える範囲が格段に広がることになる。
入り交じる事業者の思惑
それだけではない。メルペイは売上金だけでなく、本人確認を経て登録した銀行から、事前に金額をチャージ(前払い)して使える機能も備えた。メルペイは現時点で明らかにしていないが、今後はiDでのメルペイの利用額に応じたポイント付与のほか、個人間送金など幅広いサービスの提供を可能とする仕組みを整えたことになる。メルカリの国内の月間利用者数は1000万人を超え、iDの利用拡大には大きな追い風だ。
また、コード決済の「楽天ペイ」と非接触ICの「楽天Edy」という、二つの決済サービスを展開している楽天は2月12日、楽天ペイや楽天Edyだけでなく、ポイント付与サービス「楽天スーパーポイント」や電子マネー「楽天キャッシュ」による決済も一つのアプリで可能とする、新たな楽天ペイアプリの提供を3月18日から始めると発表した。複雑で分かりにくかった決済サービスをひとまとめにし、利用者を囲い込む戦略の一環といえそうだ。
業界入り乱れての利用者獲得競争は終わりが見えない。ソフトバンクとヤフーによるコード決済サービス「ペイペイ」は2月12日、利用者に総額100億円分のポイントを還元する「100億円キャンペーン」の第2弾を開始。独立系のオリガミが展開する「オリガミペイ」も翌13日から、一部のケンタッキーフライドチキン店舗で購入額が半額になるキャンペーンで迎え撃った。
精算方法を拡大して新たな利用者の取り込みを図ろうとするのが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のLINEが手がけるコード決済サービス「LINEペイ」だ。LINEペイは現在、現金や銀行口座から事前にチャージ(前払い)したうえで、店頭で使う方法を採用している。ここに、後払いとなるVisaブランドのクレジットカード決済を導入する予定で、大きな方針転換ともなる。
LINEは前払い方式を取ってきた理由について「銀行口座は若年層でも持っているが、クレジットカードは一定資産や収入が要件とされる場合があり、持っている人は限られる。銀行口座を精算方法とすることで、より多くのユーザーに使ってもらいたかった」と説明する。ただ、クレジットカードには利用額に応じたポイント付与サービスがあり、LINEペイの使用で付与するLINEポイントに上乗せできるようにして、利用者への還元を高めたいという思惑もありそうだ。
「チャージし過ぎ」注意
利用者にとって大きな魅力に映るキャッシュレス決済のサービス競争。利用者の視点で気を付けたいのは、特に前払い方式のキャッシュレス決済サービスへの「チャージのし過ぎ」だ。数々のキャッシュレス決済サービスは一見、現金を電子マネーに変えて決済するという意味では共通だ。しかし、特に前払い方式の場合、原則として現金に払い戻せないタイプと、現金に払い戻すことが可能なタイプの電子マネーがある。
これには、背景にある法規制が異なっている。現金に払い戻せないタイプは、事業者が資金決済法の「前払い式支払い手段」の発行者として発行する電子マネーで、払い戻せるのは同じく資金決済法の「資金移動業者」として発行する電子マネーだ。前者が利用者から受け取った金額の2分の1を保全することが必要なのに対し、後者は100%を求められるなど、規制の内容は資金移動業者がより厳しくなっている。
ただ、さまざまなキャッシュレス決済事業者のホームページなどを見ても、この違いが分かりやすく表示されているところは少ない。ペイペイで使える電子マネー「ヤフーマネー」やLINEペイには、前払い式支払い手段として発行する電子マネーもあれば、資金移動業者として発行する電子マネーもある。さらには、iDでの決済機能を搭載したプリペイドカードには「ソフトバンクカード」などがあるが、ソフトバンクカードにも2種類の電子マネーが存在するといった複雑さだ。
また、前払い式支払い手段として発行される電子マネーは、ペイペイはペイペイ残高が最後に増減した日から2年、LINEペイが5年などと、有効期限が決められている。大規模な利用者への還元キャンペーンにつられて、うっかりチャージをし過ぎてしまうことはありうる。後から現金として払い戻せないことに気付き、電子マネーの残高を減らすために必要もない消費を重ねるようでは本末転倒だ。特に前払いの場合は、チャージする電子マネーの種類をしっかりと確かめたい。
(編集部)