7都府県に「緊急事態宣言」 個人消費に未曽有の打撃 GDPを0.8ポイント押し下げ=永浜利広
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言に踏み切った。外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で実施されている「ロックダウン」(都市封鎖)にはならない。しかし、既に自粛要請が打ち出されていた中での緊急事態宣言になるため、更なる経済活動自粛の動きが強まることは確実だろう。
実際、緊急事態宣言に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けるのが個人消費である。そこで、2019年の家計調査(全世帯)を基に、自粛強化で大きく支出が減る費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約55%を占める。
そこで、緊急事態宣言の対象となる東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県の家計消費(帰属家賃除く)のうち約55%分が1カ月止まると仮定すると、通常に比べて最大5・5兆円の家計消費が減ることになる。実質国内総生産(GDP)ベースでは最大4・7兆円、実質GDP比で0・8ポイントの押し下げ効果が生じることになる。
効果限定の経済対策
こうした中、政府は同日、事業規模108兆円のコロナ緊急経済対策も閣議決定。財政支出の規模で見ても39兆円と大きな額が並ぶ。しかし、これらはかなり広めにとられた概念であり、直接GDP押し上げにつながるわけではない点には注意が必要だろう。今回の経済対策による景気押し上げ効果は相当控えめに見ておいたほうがいい。
経済対策の全容は予算編成まで不確定な部分があるが、景気押し上げ効果に関しては20年度補正予算額で、ある程度の目星を付けることができる。報道によれば、補正予算案の総額が16・8兆円程度とされている。このため、今年度の景気への影響を考えると、財政支出から財政投融資を除いた国・地方の歳出から更に貯蓄に回る部分などを除いた額が短期的なGDPの押し上げに効くことが見込まれる。
一方で、内閣府の最新マクロ計量モデルに基づけば、現金給付に近い所得減税の1年目の乗数は0・23にとどまる。これに基づけば、実際に20年度の実質GDPの押し上げ効果は3・9兆円(GDP比プラス0・7ポイント)前後にとどまると見込まれる。
成長率「5・2%減」
日本政府の対応ぶりをマクロ経済への影響という面で評価すれば、あくまで結果論ではあるが、より早い段階で緊急事態宣言を発動して感染拡大を抑制できていれば、経済的なダメージも少なかったかもしれないし、緊急経済対策の規模も抑制できた可能性がある。
仮に4月以降の実質GDP成長率が、リーマン・ショック後の2009年以降と同程度で推移すると仮定すれば、20年4〜6月期が最悪となり、同7〜9月期以降に回復に転じたとしても、20年度の実質GDPは前年度から27兆円程度減少し、経済成長率はマイナス5・2%となる。悪影響を最小限に食い止めるためにも、政府の迅速で大胆な政策対応が求められる。
(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)