新型コロナが「アメリカ大統領選」に与える甚大な影響=井上祐介・丸紅ワシントン事務所シニアマネージャー
米国における新型コロナウイルスの感染拡大は大統領選挙にも影響し始めてきた。3月3日の「スーパーチューズデー」ではバイデン前副大統領が民主党の候補者争いのトップに躍り出たが、その時点ではまだコロナ問題は大きな騒ぎになっていなかった。しかし、その翌週に状況が一変した。10日にバイデン氏の勝利集会などが急きょキャンセルされ、16日には民主党の候補者討論会は開催こそされたものの、観客なしの異様な雰囲気の中で行われた。
予備選挙を延期する州も出始めている。外出禁止措置を導入する自治体が一気に広がり、従来型の選挙活動の修正が迫られている。
現職はメディア露出増
米国の大統領選挙では1年以上にわたり、選挙活動が続く。候補者は分刻みのスケジュールを組んで全国を飛び回り、政策を説明するための政治集会や、有権者からの献金を募るファンドレイジングを次々とこなす。本人不在の間もボランティアによる電話作戦や戸別訪問などが、全国の選挙区で繰り広げられる。候補者は有権者と直に接し、日々の生活や悩みに耳を傾け、握手や抱擁を交わすのが米国の選挙である。
政府が16日に発表した新型コロナに関する行動ガイドラインは、10人以上の集会の自粛を求めている。この結果、選挙集会は大小を問わず、開催できない。トランプ大統領も定期的に数万人規模の集会を各地で実施してきたが、3月2日のノースカロライナ州での集会を最後に取りやめている。代わりに、毎日、ホワイトハウスでコロナウイルス対策タスクフォースの記者会見に登場し、陣頭指揮を執っている姿をアピールしている。国民の目に留まる機会は各段に増えており、十分な選挙活動の代わりになっているとも言える。
一方、トランプ大統領とは対照的に、民主党の政治家のメディア露出は極端に減ってしまった。バイデン氏は選挙活動の制約を打破するため、自宅を改装してスタジオを設け、自身の情報発信や有権者との交流の場を作った。報道番組にも登場し、コロナ対策の課題や取るべき対策を提言している。
今後は選挙資金集めでも苦戦が予想される。経済活動が中断され、多くの国民が失業の危機に瀕(ひん)する状況では派手な政治資金集めパーティーは当然のこと、民主党が強みとする幅広い有権者への小口献金の呼びかけも自粛せざるを得ない。従来型の戸別訪問ができなくなったボランティアはスマートフォンで有権者に連絡し、オンラインで行われる候補者イベントに誘導し始めている。近年、テクノロジーを駆使した選挙活動やマーケティングが積極的に活用されるようになったが、各陣営は担当チームを増員している。
選挙の争点も変わらざるを得ない。これまでは堅調な米国経済がトランプ政権の最大の成果とされ、再選に向けた強みとされてきた。しかし、国民の健康確保と経済活動の継続という二つの課題を同時に抱え、今後、危機にいかに対処するかが厳しく評価されることになる。民主党も医療保険制度といった従来の政策を主張するばかりでなく、現政権に代わり得る政権担当能力を示さなければならない。既に一部では、11月の投票日には、郵送での投票の拡大なども議論されている。
■井上祐介(丸紅ワシントン事務所シニアマネージャー)
(本誌〈自宅中継、スマホ駆使 選挙活動もコロナ対応=井上祐介〉)