教養・歴史書評

『現代経済学の直観的方法』 評者・田代秀敏

    著者 長沼伸一郎(物理学者) 講談社 2400円

    物理学の視点で経済現象捉える「ものの考え方」示した基本書

    「大恐慌の時よりも、ある意味で精神的には厳しい」

     安倍晋三総理が国会でこう述べた通り、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が歴史的な恐慌を起こそうとしている最中に、「コロナの時代の資本主義を考える一助となる一冊になれば」 との思いで本書は出版された。

     著者の処女作『物理数学の直観的方法』 は、「難解な数学的手法の意味が、目からウロコが落ちるように理解できた」 と絶大な支持を得て、33年もの間、版を重ねている。

     その著者が、「ビジネスのために最も楽に経済学を学べる本」であると同時に、「読者が未来の経済学を模索するためにベースとなる知識を提供する」ものとして、30年かけて執筆したのが本書である。

    「正確な最新情報などは他の本に委ね、内容の大筋を多少(筆者注:実は極めて大胆に)デフォルメして、とにかく基本的な『ものの考え方』を把握するという一点に徹する」という方針が全巻を通して貫かれる。

     例えば仮想通貨に関する章では、読者が電卓片手に自分で極めて簡単なブロックチェーンを作っていくことで、そのメカニズムの基本原理を理解できるように工夫されている。

    「マクロ経済学の基本原理」である「Y(国民所得)=C(消費)+I(投資)」は、鉄道が金貨を運ぶモデルを用い、簡単な数値例を使って具体的に説明される。金貨は各章で説明に用いられ、どれもビットコインの説明につながっており、実に本書は周到に全体が構成されている。

     政府支出の増加が相互連関を通じて数倍の経済規模の増加をもたらす「乗数効果」を、自分が汲み上げた石油を燃料にして自分自身が動くポンプを用いて説明するのは、物理学者らしい独創的な工夫である。

     物理学的な直観が最も躍動するのは最終章「資本主義の将来はどこへ向かうのか」である。 量子力学で相互作用の糸の絡みが狭まることを表す「縮退」、および相対性理論におけるブラックホールの古い呼び方「コラプサー」(自らの重力で崩壊した星の意味)を用い、資本主義の縮退を止めコラプサー状態から脱却させるためには、経済学全体を数学と物理学とに根本的に基づいて新しく作り直す必要があると宣言するくだりは、実に示唆に富む。

     著者は4年前に『経済数学の直観的方法』のマクロ経済学編で動学的マクロ均衡理論を、確率・統計編でブラック・ショールズ方程式を「直観化」した 。両著と本書との3部作は21世紀の古典となるだろう。

    (田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


     ながぬま・しんいちろう 1961年生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業後、同大学大学院中退。87年『物理数学の直観的方法』を自費出版し、一躍名を知られる。他の著書に『一般相対性理論の直観的方法』など。

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