消費税引き下げには本当に効果があるのか=熊谷徹
ドイツ連邦政府は、パンデミックによる景気後退の悪影響を緩和するために、6月3日に総額1300億ユーロ(15兆6000億円)の景気刺激策を閣議決定した。
同国の日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』は6月3日付電子版で、「57項目の政策パッケージの最大の目玉は、史上初の付加価値減税だ。政府は、今年7~12月に限り付加価値税率を19%から16%に下げる。パンなど食料品に適用されている7%の軽減税率は5%に引き下げられる。これにより200億ユーロ(2兆4000億円)の負担が減らされる。また子ども1人につき300ユーロ(3万6000円)の家族ボーナスを支給して個人世帯を支援する他、小売店、飲食店、ホテルなどコロナ危機で売上高が大幅に減った事業所に対し、総額250億ユーロ(3兆円)の資金援助を実施する」と報じた。
だが付加価値減税が本当に国内消費を促進するかどうかは、未知数だ。ドイツの日刊紙『南ドイツ新聞』は6月12日付電子版で、消費者団体連合会のK・ミュラー会長の「付加価値税は内税なので、税率が減っても、企業が小売価格を下げるという保証はない。小売店やレストランにとっては、半年だけ付加価値税を減らす作業は、過重な負担となる。価格を下げなければ収益が増す。飲食業界はすでに価格を下げない方針を明らかにしている。消費者が付加価値税率引き下げによって、どの程度恩恵を受けるかについては、経済学者の間でも意見が分かれている」というコメントを引用している。
自動車業界は失望
今回の景気刺激策は、需要減に苦しむ自動車業界を失望させた。ドイツの日刊経済紙『ハンデルスブラット』は6月4日付の電子版で「メルケル政権は、『新車購入補助金をエコカーだけではなく、内燃機関の車にも出すべきだ』という自動車工業会の要求を受け入れなかった。政府は、地球温暖化防止の観点から、価格が4万ユーロまでの電気自動車(EV)かプラグインハイブリッド車(PHV)を買う市民だけに補助金(6000ユーロ=72万円)を支給する」と報じた。同紙は「ドイツで去年売られた車の91%はディーゼルかガソリンエンジン搭載車だった。EVは6万3000台、PHVは24万台しか売れていない。エコカーだけに補助金を出しても焼け石に水だ」と論評している。同紙によると、現在ドイツのディーラーでは150億ユーロ相当のディーゼル・ガソリン車が売れ残っており、需要が回復するまでには数年かかるという。
景気刺激策には、EV充電インフラの増設や水素エネルギーの実用化など、二酸化炭素(CO2)削減のための政策も多数含まれている。この点について、ドイツの経済週刊誌『ヴィルトシャフツ・ヴォッへ』は6月3日付電子版に世界経済研究所のG・フェルバーマイヤー所長の論文を掲載した。同氏は「コロナ危機による打撃からの復興だけではなく、温室効果ガスの削減も重要な政策課題だ。だが短期的な景気刺激策によって、環境に負荷をかけないインフラへの投資を増やし、地球温暖化対策も前進させようとするもくろみは、成功しないだろう。気候変動に歯止めをかける上で最も効果があるのは、CO2価格の引き上げだ」と述べ、パンデミック対策と気候変動対策を両立させようとする政府の戦略に疑問を投げかけた。
(熊谷徹・在独ジャーナリスト)
(本誌初出 コロナ対策の付加価値減税 ドイツで効果に疑問の声=熊谷徹 20200714)