「コロナ禍」はあと2年……リアルの減少をデジタルで補えない「昭和の会社」は淘汰される
より強固な顧客接点の構築が必須
現在、新型コロナウイルスの非常事態宣言が解除され、警戒感を保ちながらではあるが、さまざまな活動が再開されつつある。
一新される消費行動
しかし、国際通貨基金(IMF)が4月に発表した世界の国内総生産(GDP)予想によると、日本を含む先進国で経済成長減速が回復に転じるのは今年の第3四半期以降であり、さらに、2019年当初と同じ水準に戻るのは21年末になると予想されている(図1)。
つまり、各国政府とも大規模な経済刺激策を打っているものの、これから2年間は新型コロナの影響が続くということになる。
今後、経済が元の水準に復活する過程で、既存の業界構造が大きく変化する可能性が高い。
特に大きく変化すると思われるのが小売業界だ。対前年同期比で売り上げが10%以下となった企業も存在する。この傾向は日米で共通しており、米国でもほぼすべての小売り分野で昨年度よりも売上高の減少が予想されている。
一方で食品スーパーとEC(電子商取引)は、この状況下でも堅調に推移している(図2)。
食品スーパーはライフライン的な役割がある。また、ECは、リアル店舗の需要を大きく代替する形で伸長している。
新型コロナによる消費者行動の変化は大きく、小売業界では、今回のコロナ禍で、すでに4回の「パニック買い」を経験している。図3は食品スーパーの客数のデータで、消費行動の全体を表すものではないが、その傾向を読み取ることができる。
4回の内訳は、(1)マスク不足によるパニック、(2)災害備蓄、(3)巣ごもり・在宅ワーク、(4)自粛長期化・自粛連休──である。
さらに今後は、リベンジ消費(巣ごもりを我慢した反動の消費)や、第2波(コロナの再流行化)、リモートワークの定着、レジレス(会計の省略)やキャッシュレスなどの浸透、密集を避けるなどの新しい生活様式(ニューノーマル)の定着で、従来とは異なる消費行動の常態化が考えられる。つまり、今後の生産・販売計画においては、これまでの考え方が通用しないのだ。そのため、現場の売り上げデータを基にして、オペレーションを支援していくなどの仕組みの構築が重要になっている。
生存競争が激化
このような話は、以前からDX(デジタルトランスフォーメーション)の課題とされてきた部分だ。DXとは、「デジタル技術の浸透が、生活や産業などのあらゆる分野をより良い方向に変化させる」という概念である。今回の新型コロナの影響によって、改めてDXの価値が再確認されることになった。
「経営戦略の視点から見たDXは、データに基づいてバリューチェーン(価値の連鎖)を再構築することであり、データ資源の活用やネットとリアルの統合などが、その要点になる」
この観点で考えると新型コロナ禍は、リアルな経済活動を縮小させると同時に、その代替としてネットでの経済活動や人手作業から計算機による代替を強く要請する、言わば「強制的DX」と言うべき状態を生み出している。強制による変化は大きな困難を伴うが、この流れは止められないだろう。
当然、課題も多い。例えば、ネット上で顧客接点、すなわち企業や店舗が顧客と直接、接する場所をどう確保するかは、従来からのDX上の課題であった。リアルでの集客が限定的にならざるを得ない現状では、ネットを介してより強固な顧客接点の構築が必須となる。現実的には、リアル店舗とネットでのサービスを統合して、顧客と24時間寄り添うような考え方が必要になるだろう。
また、顧客接点が変わると、販売チャンネルやプロモーション(販売促進活動)の方法も変わってくる。とりわけ、販売チャンネルの変更はバリューチェーンのあり方に大きな影響を与えるため企業の生存競争が激化、業界ごとに優勝劣敗が出てくるだろう。
新型コロナの経済活動への影響は大きく、後戻りできない変化を社会に与えた。これを契機にDXへの取り組みを真剣に考えることが強く求められると同時に、DXによる変革ができない企業は、今後生き残っていくことが難しいだろう。
(立本博文・筑波大学ビジネスサイエンス系教授)
(本誌初出 コロナ禍はデジタル化を強制する=立本博文 20200728)
■人物略歴
たつもと・ひろふみ
1974年千葉県出身、博士(経済学)。東京大学経済学部卒業。東京大学先端科学技術研究センター助手、東京大学ものづくり経営研究センター助教、兵庫県立大学経営学部准教授、MIT客員研究員、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、2016年より現職。