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あの周庭氏まで!香港で民主活動家が続々逮捕される理由の「香港国安法」とは何なのか

中国政府直属の治安維持機関が設置され、警戒感が高まる(Bloomberg)
中国政府直属の治安維持機関が設置され、警戒感が高まる(Bloomberg)

 中国全国人民代表大会の常務委員会が7月1日の香港返還記念日の前日、香港での国家分裂活動などを禁止する香港国家安全維持法(国安法)を可決し、即日施行された。香港の旧宗主国である英国は日本や欧米と共に香港の高度な自治を認めた中英共同宣言違反であり、「1国2制度」を破壊すると非難する共同声明を出した。

 一方、中国共産党の機関紙『人民日報』(7月2日)は評論員論文で「香港を長期的に繁栄、安定させる防波堤が築かれた」と正当性を強調した。民主主義国家と中国の価値観が真っ向から衝突する形だ。米『ワシントン・ポスト』紙は社説(7月2日)で「言論の自由と法治のとりでが窒息させられた」「世界の自由にとって悲しい日だ」とその歴史的な意味を説いた。

 香港の憲法に当たる香港基本法は香港特別区政府に国家安全法制の整備を義務づけている。しかし、2003年に提案された国家安全条例案が50万人の反対デモで撤回されて以来、歴代政府は提案を見送ってきた。中国は昨年の「逃亡犯条例」改正案をめぐる大規模な反対デモで香港政府に見切りをつけ、香港議会を通じずに自ら制定するという「裏技」を使った。

 国安法は国家分裂、中国政府転覆、テロ活動、外国勢力との結託の4犯罪を禁止し、最高刑を終身刑と規定している。似た法律は他国にもあるが、国際社会が問題視したのは香港人が立法に参加できなかった上、異例のスピードで審議が進み、犯罪の要件も不明確なことだ。

 香港には国安法に基づき、中国政府直属の治安維持機関「国家安全維持公署」が開設され、香港政府が設置した「国家安全維持委員会」には中国政府から顧問が派遣された。香港に対する中国の直接の介入の強化だ。条件付きで捜査機関に令状なしの家宅捜索や通信傍受を認め、外国人や国外での犯罪の立件も可能にしており、外国企業の警戒感も高まっている。

 中国の英字紙『チャイナ・デーリー』が社説(7月6日)で「国家安全に妥協はない」と外国の批判を一蹴するなど中国に軟化の兆しはない。米議会は香港の自治侵害に加わった中国政府関係者や金融機関を制裁対象にする「香港自治法」を可決したが、香港の金融センターとしての地位に影響を及ぼすような措置は香港に拠点を置く日本や欧米企業にも影響を与えかねない。

 米ブルームバーグ通信(7月8日)は「香港への制裁はウォールストリートを脅かす」と指摘した。欧州は批判の共同声明を主導した英国を含め、対中制裁には消極的だ。むしろ、中国との対話を進めるべきとの声が多い。英金融大手HSBC傘下の香港上海銀行など英系銀行も国安法を支持する。中国が強い姿勢を崩さないのも欧米の圧力には限界があると読み切っているからかもしれない。9月に予定される立法会選挙で国安法に反対する民主派の立候補が認められない可能性もある。

金融ハブに影響も

 英国は条件付きで香港人最大300万人の受け入れを表明しており、香港から人材流出が進む可能性もある。英国流の司法制度が崩れれば、法治への信頼も低下する。英『ガーディアン』紙(7月8日)は「投資家は中国の統制強化が香港の金融ハブとしての地位を傷つけると考えている」と指摘する。中国の思惑通りに長期にわたって香港の繁栄が維持されるかは不透明だ。

(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)

(本誌初出 1国2制度を破壊する香港国安法成立に懸念の声=坂東賢治 20200728)

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