「なんとしてもキャピタルゲインが欲しい」キオクシア上場延期の陰に見え隠れする「東芝の本音」
電源を切っても記憶内容が消えないNAND型フラッシュメモリーの国内唯一のメーカー、キオクシアが10月6日に予定していた東京証券取引所への株式上場を延期、株式の売り出しを中止することを9月28日に発表した。表向きの理由は、「最近の株式市場の動向や新型コロナウイルス感染の再拡大への懸念など諸般の事情を総合的に勘案した」とニュースリリースには書かれている。
しかし、この理由には納得できない。新型コロナウイルス感染拡大によって、NAND型フラッシュメモリーをはじめとする半導体メモリーの需要は拡大しているからだ。メモリー業界はテレワークをはじめWFH(Work from Home)といったオンライン会議による特需に沸いている。テレワークは、家庭にパソコンやWi−Fiルーターを導入する需要や、クラウドに使うデータセンターのコンピューター需要を旺盛にしている。コンピューターだけではなくスマートフォンにもNAND型フラッシュメモリーが大量に使われ、コロナ禍で需要が拡大している。
9月28日の日本経済新聞によれば、キオクシアのスマホ向けフラッシュメモリーの売上高は全体の約4割を占める。一方で連結売上高に占める中国ファーウェイ向けは数%だという。これが事実だとすれば、米中対立によるファーウェイへの規制がキオクシアの事業に与える影響は少ないことになる。キオクシアの出荷先で最大なのは米アップルだろう。ただし、アップルはスマホの生産を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国工場に委託しており、キオクシアのメモリーも中国へ輸出している。要するに中国市場次第ということになる。
鍵は米中対立
キオクシアが今回上場延期を決めたのは、米中貿易戦争で中国向けのメモリーチップやSSD(半導体ディスク装置)の売り上げが米国政府次第で流動的になるからだ。両政府の出方によってはキオクシアに対する評価がマイナスに振れる恐れがある。
せっかくの上場でキャピタルゲインが得られなければこれまでの上場への努力が無駄に終わる。何としても東芝はキャピタルゲインが欲しい。というのは、売り出す株は東芝とHOYAが握っている株式であり、東芝はキオクシアの株式の約4割を持つからだ。
米国政府はこれまで中国の半導体企業を狙い撃ちしてきた。この米中貿易戦争は、最初はZTE、次にファーウェイ、そして今度は半導体製造を手掛けるファウンドリーのSMICへと対象を広げた。キオクシア上場延期発表の日に、SMICの工場で欠かせない米国製半導体製造装置の中国への輸出に許可制を米国政府が導入した。SMICはファーウェイへの半導体を製造することが極めて困難になる。
今後もさらに中国の半導体企業が狙われる可能性がある。それまでに東芝は、米中貿易の安定した時期を見つけて上場することになろう。
(津田建二・国際技術ジャーナリスト)
(本誌初出 キオクシア上場延期 予定の8日前に翻意 東芝の慎重さが見え隠れ=津田建二 20201013)