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教養・歴史 小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

ストア派の禁欲主義は「我慢」とは違うワケ……コロナに負けないための「心の平穏」について考える

 Q コロナ禍の行動制限で欲求不満がたまっています

 A 自分次第でできることをみつけ、心の平穏を持続させよう

コロナ禍で今、旅行や外食などが制限され不自由な生活を強いられているせいか、できないとなると、よけいに欲望が増し、欲求不満で死にそうです。

どうすればいいでしょうか。

(システムエンジニア・30代女性)

今、世界中の誰もが欲求不満をため込んでいるのではないでしょうか。

できないとなると、欲望は余計にふくらむものです。

でも、だからといってただ我慢するのも限界があります。

そこで参考になるのが、古代ローマの哲学者エピクテトスです。

なんと元奴隷という経歴の持ち主です。

彼は奴隷だったからこそ、不自由な中で幸せになるための哲学を見いだすことができたのだと思います。

エピクテトスは宴会を例に出し、「遠くから欲望を投げかけるな」と言います。

古代ローマでは、料理が席順に回ってくる仕組みだったのですが、まだ自分のところに来ない料理を遠くから求めていても仕方ないというわけです。

それなら近くにある手の届く料理を取ったほうがいいと。

つまり、エピクテトスの基本的な考えは、自分ではどうにもならないことを求めても仕方ないので、自分次第でなんとかなることに注力せよというものなのです。

たとえそれは100%満足のいくものではないにしても、ゼロよりはましなはずです。

お目当ての料理を待っていても、誰かに先に食べられてしまったらどうするのか?

我慢ではなく戦略を

だから手が届くものを食べておいたほうがいいのです。

エピクテトスは、いわゆるストア派に属する哲学者だといわれます。

ストアとは、ストイックという言葉から来ていて、ストア派は禁欲主義を掲げる人たちです。

でも、すでに見てきたようにエピクテトスの言っていることは、必ずしも我慢ではありません。あくまで戦略なのです。

それは奴隷であったエピクテトスにとっては、むしろ生き延びるための戦略でもありました。

そうでないと、苦しくて人生が嫌になるでしょうから。

人間には心の平穏が必要なのです。

自分次第でできることを一応手に入れておけば、少しでも心の平穏が得られるはずです。

人間の最終目標は満足ではなくて、実は心の平穏なのです。

ストア派はその境地を「アパテイア」と呼びました。

相談者にもこのアパテイアを目指して、自分次第でなんとかなることの実践をお勧めします。

欲求不満をためるより、心の平穏をためていったほうが幸せに近づくはずですから。

(本誌初出 コロナ禍の行動制限で欲求不満がたまっています/56 20201117)

(イラスト:いご昭二)


エピクテトス(50年ごろ〜135年ごろ)。古代ローマのストア派の哲学者。元奴隷という経歴の持ち主。著書はないが弟子たちが、記した『語録』と『提要』が読み継がれている。


【お勧めの本】

荻野弘之著『奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業』(ダイヤモンド社)。エピクテトスの考えを漫画と共に紹介


読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp


 ■人物略歴

小川仁志(おがわ・ひとし)

 1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。

「小川仁志の哲学チャンネル」

https://www.youtube.com/channel/UC6QhXJZtGm7r287kam1Z1bg

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