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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

「1トンあたり40グラムの金」品質では世界一の金山「菱刈鉱山」とは何か

地下から採掘される金は、酸やアルカリに強いうえ耐腐食性に富み、高い温度でも変化しにくい貴金属の代表である。

工業原料として高い有用性があるだけでなく、希少性と美しさゆえ宝飾品としての価値もある。

金が高価なのは地上にある量が非常に少ないからだ。

地球の表面を構成する地殻に含まれる金の割合はわずかに10億分の2で、金は密度が高いので地球の深部により多く存在している。

地下3000キロの深さにある核では、金の割合は10万分の1と推定されているが、取り出すのは不可能である。

また、海水にも微量の金がイオンとして含まれており、2万トンの海水を煮詰めると1グラムの金を得ることができる。

海水から鉱産資源を得る研究は続けられているが、経済的に採取する方法はまだない。

微量にしか存在しない金は、マグマの活動によって地表近くへ運ばれてきた時に採掘できる。

こうした金が濃集している場所が「金鉱床」である。化学反応を起こしにくい金は、化合物ではなく単体として鉱石の中に存在する。

高い品位の「菱刈」

マグマの熱によって、高温の地下水が流れたあとに多種の金属を含む「鉱脈」ができるが、この中にごく微小の金の粒が入っているのである。

ちなみに、金鉱石とは、1トン当たり5グラム以上の金を含むものを指し、2グラムほどあれば採算が合うため採掘される。

人類が過去に採掘した金は10万トンほどで、ほかの金属と比べると非常に少ない量が、その8割はリサイクルされて何度も使用されてきた。

かつての日本では金が多く取れたため、13世紀末にマルコ・ポーロは『東方見聞録』で「黄金の国」として紹介した。

17世紀には佐渡金山(新潟)の採掘が始まり、各地に金山が開発された日本は世界有数の金の産出国となった。 

1981年に鹿児島県北部の菱刈(ひしかり)鉱山で、高品位の金鉱脈が発見された。

その4年後には生産を開始しこれまで248・2トン(今年3月末現在)の金を産出した。

菱刈鉱山は金の品位が高いことでも突出しており、1トンの鉱石中に40グラムもの金を含む。

世界の主要な金鉱山の品位は平均5グラムなので、世界最高と言っても過言ではない。

ここの金鉱床は、100万年ほど前に地下浅部に発達した熱水活動によって形成された。

マグマによって熱せられた地下水に金や銀などの有用金属が溶け出し、上部で冷やされて鉱脈ができた(図)。

日本では金属鉱山はほぼすべてが閉鎖されたが、菱刈鉱山は採算のとれるただ一つの鉱山である。

火山国の我が国には、菱刈鉱山のような鉱脈が発見されないまま埋もれている可能性が高い。

日本は世界有数の探鉱技術を持つ国である。資源を安定的に確保するためにも、海外での鉱山探査とともに、国内の未開発資源の探査に積極的に取り組む必要がある。

(本誌初出 歴史的高値の「金」 火山国・日本に埋もれる鉱脈/27  20201117)


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。

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