経済・企業注目の特集

ホテル・飲食業の出店再開も「K字型回復」に戸惑う市場

    ホテル・飲食業が出店再開 「K字型回復」に戸惑う市場=中園敦二/和田肇

     <2021年下期 世界経済&マーケット総予測>

    「『旅行をしたい』というマグマがたまりにたまっている。コロナ後のホテル業界には極めて明るい世界が待っている」(下期世界経済総予測 特集はこちら)

     東京に4回目の緊急事態宣言が発令された7月12日。東京ディズニーランドに近い千葉県浦安市に「ハイアットリージェンシー東京ベイ」が開業した。ホテルを所有・運営する相互物産グループを率いる小澤真也社長は満面の笑みを浮かべる。

     ちょうど2年前に宿泊特化型の「ハイアットプレイス」として開業したが、コロナ感染拡大による緊急事態宣言により約10カ月後に休館。企業の会議需要などに応じられるよう、10億円以上の追加投資をしてフルサービスの「ハイアットリージェンシー」として再出発した。客室稼働率は2割程度でのスタートだが、国内のハイアットブランドを取り仕切る日本ハイアット(東京)の坂村政彦副社長は「米国はワクチン接種率が5割を超えた辺りで活動が活発となり、観光業界は結構好調だ。7月4日の独立記念日の週末はハイアットの平均滞在日数が2年前と比べ5割増えた」と米国同様の復活に期待する。

    7月に開業した「ハイアットリージェンシー東京ベイ」(千葉県浦安市)
    7月に開業した「ハイアットリージェンシー東京ベイ」(千葉県浦安市)

     同様に、有名ホテルの開業が続く。ヒルトングループは今年9月に日本初進出となるブランド「ROKU KYOTO LXRホテルズ&リゾーツ」(京都)、11月には「ヒルトン長崎」を開業予定。ハイアットは22年秋に「富士スピードウェイホテル」(静岡)をオープンする。ホテルオークラは22年1月に、帝国ホテルは26年春にいずれもインバウンド(訪日外国人客)が見込める京都で開業する方針だ。今年6月に国内70店目のホテルを大阪で開業したマリオット・インターナショナルは23年までに100店以上にするという。

    新業態の出店加速

     飲食業界も動き出している。ロイヤルホストを展開するロイヤルホールディングス(HD)は今年5月にバターミルクフライドチキン専門店「ラッキーロッキーチキン」を開業させ、テークアウト需要の取り込みを狙う。居酒屋の鳥貴族HDは8月中旬に新業態のチキンバーガー専門店「トリキバーガー」を開業する。「居酒屋と並ぶ2本目の柱」にするのが狙いで、1店舗年間2億円の売り上げを目標に3年で10〜20店を全国で展開する方針だ。また、ワタミはメインブランドの「和民」を今年3月末までに全店閉店し、「ミライザカ」など居酒屋業態店舗約280店を「焼肉の和民」などに転換する一方、テークアウトの「から揚げの天才」は今年度中に2倍の200店に拡大するという。

     コロナ禍で外食が控えられたため「店で何を食べたいのか」を意識する顧客が増えており、ワタミの渡邉美樹会長は「何でもありの居酒屋に行くのではなく、食べたいものをはっきりとさせた目的来店となっている」と分析、専門店が集合した新形態の店舗を検討している。

     大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストは「各国でワクチン接種率が8%超となるとサービス業PMI(購買担当者景気指数)も上がり、50%以上になるともう一段階上がる場合もある」(図1)と指摘、今秋に見込まれる総選挙後に菅政権継続となれば日本株も上昇すると見込む。

     りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフエコノミスト・チーフストラテジストは、ワクチン接種率がある程度に達すると、ホテル、外食、旅行、陸空運などでペントアップデマンド(繰り延べ需要)が起きると予想する。個人の普通預金残高(21年3月末)は340兆円と前年同期比37兆円増で、通常の増加額を差し引いてみても約20兆円分が“軍資金”となり、早ければ秋口にも消費に火をつけるとみる。また、菅政権が総選挙前にも大型補正予算を打ち出すとみられ、「GoToトラベル」を再開すればその流れは一段と加速する。さらに、数年後に中国などからのインバウンドが回復すれば、「コロナ不況7業種」といわれた業界が一気に息を吹き返す可能性があると指摘する。

     ただ、コロナで打撃を受けた宿泊、飲食、小売りなどのサービス業が一律に回復すると見るのは楽観的過ぎるかもしれない。東京商工リサーチによると、居酒屋などを展開する上場主要14社の21年3月末の店舗数は、コロナ禍前の19年12月末と比べて14・5%に当たる1048店が減少した。コロナで消費者の志向も大きく変わった。財務面で余裕があり、デジタルで新機軸のサービスを提供できる企業とそうでない企業の間で差が付く、「K字型の景気回復」になる可能性が否定できない。

    「回復はゆっくり」の声も

     日本人の慎重な態度が、ペントアップデマンドの頭を抑える公算もある。ビッグデータで経済分析を行う「ナウキャスト」の創業者で東京大学大学院の渡辺努教授は「日本人は若い人でもコロナに対しての“恐怖心”が強く、コロナ後に消費がすぐに伸びるとは限らない」と話す。「経済の回復が各国と比べて遅くなり、世界のポストコロナの産業構造に乗り遅れる場合もある」と予想する。ナウキャストによると、外食、旅行、宿泊などの消費は、コロナ前の水準を大きく下回ったままだ(図2)。

     東京・日本橋で130年間続く「ホテルかずさや」の工藤哲夫社長も慎重派だ。「五輪も無観客開催となった。インバウンドはゆっくり回復し、本格化するのは23年ぐらいだろう。そこまでホテル業界が耐えきれるか」と話す。

    五輪同様、国内経済も「熱狂なき」回復か
    五輪同様、国内経済も「熱狂なき」回復か

     ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「一度体験したデジタルの流れは世界的にも逆戻りはせず、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などデジタルとリアルが融合した“デジタルリアル”という産業領域で、あらゆるシーンに対応する商品がある日本の製造業が見直される」とコロナ打撃業種以外の業績拡大も予想する。しかし、こうした期待と裏腹に、日本の株式市場の上値は、欧米に比べて重い。

     スムーズに上がらないワクチン接種率、ほぼ無観客の東京五輪、秋の総選挙での与党大敗の予感と、不安材料を抱えながら、年後半の日本経済が幕を開ける。

    (中園敦二・編集部)

    (和田肇・編集部)

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