人員削減、ホテル売却、値上げの体力勝負に突入=村田晋一郎
聖域の人員削減、ホテル売却、値上げの体力勝負に突入=村田晋一郎
「第1四半期実績の反映に加え、コロナ影響の長期化を踏まえ、回復局面の時期を見直すなどした結果」として、JR西日本の倉坂昇治副社長は7月30日、期初想定の30億円の黒字から最大1165億円の赤字へと大幅に引き下げたことを明らかにした。また、JR東海でも「(運輸収入について)当初想定より2カ月程度回復の立ち上がり時期を後ろ倒した」ことから、純利益予想を当初の900億円の黒字から83%減の150億円へと下方修正。(鉄道緊急事態 特集はこちら)
耐える時期
新型コロナウイルスの新規感染者の急増を受けて、政府が発出している緊急事態宣言の延長および適用範囲の拡大の動きが続く。これにより、コロナ禍がさらに長引き、業績回復の時期を見直す鉄道会社が出てきている。
昨年からのコロナ禍で、鉄道事業者は売り上げをおおむね2~3割落としている。特に鉄道収入のうち定期収入は、テレワーク(在宅勤務)の定着により、コロナ禍以前の水準に戻ることはないと見られている。コロナ後に鉄道収入が回復しても、「良くてコロナ前の9割」と認識している鉄道事業者は多い。残りの1割をどう埋めていくかに、各社は頭を悩ませている。
鉄道事業者は固定費が8割を占めるため、仮に売り上げが9割まで回復したとしても利益確保には構造改革が必至だ。ただし、安心・安全な交通インフラを提供することが大前提にある。
例えば、人員削減を行うとしても安心・安全な鉄道の運行を担保しながらになるため、今年度中にすぐにリストラを実行するわけにはいかない。数年かけて、業務の効率化を進めていくしかない。その意味では、コロナ禍の現在からコロナ後数年の期間は、鉄道会社にとっては“耐える時期”になる。
鉄道会社の厳しい状況に変わりはないが、わずかながらプラスの動きもある。緊急事態宣言は現在4度目の発出であり、1年以上にわたって発出と解除を繰り返してきたことから“宣言慣れ”が生じていることは否めない。そして、経済活動の維持のために移動せざるをえない人、構わず移動する人は、引き続き移動している。
実際に足元では、緊急事態宣言が鉄道の需要を押し下げる度合いが軽減してきている。首都圏のある私鉄大手では、定期外収入が昨年4月の最初の緊急事態宣言発出時には瞬間的に6割減少した。しかし、現在は平時の3割減まで戻っている需要が、宣言が発出されると4割減になる状況だ。
また、鉄道の目的地でもあるリゾート地のホテル事業についても、昨年4月の宣言発出時にはキャンセルが相次いだが、現在は低い稼働率ながらも宣言発出に伴うキャンセルはほとんど出ていないという。
宣言は延長へ
しかし、そうした宣言慣れや我慢疲れによる人の移動が、感染拡大を勢い付けてしまっている側面は見逃せない。
災害レベルともいう感染急拡大に伴い、政府は8月17日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言の対象に兵庫、福岡など7府県を追加する方針を決めた。期間は8月20日から9月12日までとする。8月31日が期限となっている東京など6都府県に発令中の緊急事態宣言も同じ9月12日まで延長することを決定した。
旅行需要の回復のカギを握る新型コロナウイルスのワクチン接種状況は政府発表によると、8月12日現在、2回接種完了者の割合は全体の36・5%にとどまる。新たに7府県が緊急事態宣言に追加され、すでに宣言が発出されている地域でも期限延長となったダメージは決して小さくない。
回復が見通せない中、ついに聖域とされてきた人員削減に踏み切ったり、ホテルなどの資産売却を検討する私鉄大手も現れてきた。運賃の値上げや定期の割引率の引き下げを模索する鉄道会社もある。
輸送ライフラインの鉄道の緊急事態下、コロナ収束やワクチン普及による需要回復まで持ちこたえられるか、コロナ後の需要に応える体力は残っているか──。体力勝負の様相を呈している。
(村田晋一郎・編集部)