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《戦時経済》【ウクライナ侵攻】どうする日本のサハリンLNG エネルギー戦争が始まった

日本のLNG調達に支障が出かない Bloomberg
日本のLNG調達に支障が出かない Bloomberg

 サハリンからLNG(液化天然ガス)が来なくなれば、日本では債務超過に陥るガス会社も出るだろう。欧米の石油メジャーに同調してロシアから撤退すべきではない」──。

 日本のガス大手首脳はこう打ち明ける。2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。米欧日が経済制裁を科す中、石油メジャーと呼ばれる英BP、英蘭シェル、米エクソンモービルが、ロシアの石油・ガス事業からの撤退を相次いで表明した。とりわけ衝撃的だったのが、極東での石油・ガス開発事業「サハリン2」からのシェルの撤退だ。>>>「戦時経済」特集はこちら

 サハリン2は1980年代に三井物産の参入から始まり、2009年に操業を開始した30年越しの“日の丸LNG”プロジェクト。北海道のすぐ北に位置し、わずか3日で日本に届くサハリン2のLNGは、中東からなら通常で3週間かかるのに比べれば、格段の近さや輸送コストの低さを誇る。中東のホルムズ海峡のように危険な海域を通る必要もない。

 日本がロシアから調達するLNGは全体の8・3%(19年度)にすぎないが、広島ガスは全体の約5割、東邦ガスは2割、九州電力、東北電力、東京ガスも1割をサハリン2からのLNGに依存している。サハリン2からの供給が途絶えれば、スポット(随時契約)市場でLNGを調達しなければならないが、価格が高騰しているだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻によって世界中でLNGの争奪戦が発生し、必要な量が確保できない可能性もある。

撤退資産は「国有化」

 日本がサハリン2の権益を手放せば、格安で中国が手を伸ばす可能性もある。また、ロシアのプーチン大統領は3月10日、撤退した外国企業の資産を国有化する政府方針を了承し、撤退を決断するのは容易ではない。日本は70年代の二度のオイルショックを受け、化石燃料の調達先を多様化するため、ロシアで長年にわたって資源開発を進めてきた。今回の侵攻は、そうした努力を一瞬で行き詰まらせた。

 日本以上にロシアの化石燃料への依存度が高いのが欧州だ。欧州はロシア産石油に約3割、天然ガスに至っては4割以上を依存する。中でも、ドイツは12年に完成した独露間をバルト海経由で結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」などを通じて、年860億立方メートルの天然ガスをロシアから購入している。この他にも、ウクライナ経由など合計6本のパイプラインを通じてロシアからガスを輸入しており、LNGにすれば欧州全体で年1・4億トン、日本2カ国分の量に匹敵する。

露中にパイプライン

 欧州がロシアの化石燃料から即時脱却するのは困難だ。欧州連合(EU)首脳は3月11日、パリのベルサイユ宮殿に集まり、EUの防衛力強化とともに、ロシア産の化石燃料からの脱却を盛り込んだ「ベルサイユ宣言」を採択したが、フォンデアライエン欧州委員長は会議後の記者会見で、脱却を目指す時期を5年先の「2027年」としており、欧州の苦しい事情が如実に表れた。

 脱炭素の先頭を走っていた欧州。その主役と位置付ける再生可能エネルギーが普及するまで、移行期のエネルギーとして注目していたのが、二酸化炭素排出量が石炭の約半分の天然ガスだった。また、欧州委員会は今年2月、原子力を環境負荷の低い「グリーン」なエネルギー源とも位置付けている。そのタイミングでロシアが仕掛けたウクライナ侵攻と原発への攻撃は、欧州の足元を見た「エネルギー戦争」の側面も併せ持っている。

 欧州向けの化石燃料の輸出が止まれば、欧州も寒い冬を越すことが難しくなるが、ロシアも国家収入を支える市場を失う。しかし、ロシアは西の欧州だけでなく、すでに東の中国にも販路を開拓していた。ロシアと中国を結ぶ天然ガスパイプライン「シベリアの力」が19年12月に開通しており、今年2月にはさらなる供給量拡大で合意。モンゴル経由の「シベリアの力2」プロジェクトも着々と進めている。すべて開通すれば、ドイツがロシアから輸入するガスの総量を上回る。

 今後、ウクライナ侵攻がどのような形で決着しようとも、米欧日とロシアが侵攻前のような関係に戻る可能性は極めて低い。直接戦火は交えなくとも、エネルギーを含めあらゆる分野で、ロシアとの緊張状態は当分続く。日本もロシアに依存しない経済へと大きな転換を迫られるが、その過程ではサハリン開発にとどまらず、すでに投資を決めたロシア北極圏でのLNG開発に影響が及ぶ可能性もある。

(金山隆一・編集部)

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