米メディアは安部政権の日米同盟深化を評価=岩田太郎
在任期間が最長となった安倍晋三総理大臣の辞任を伝える米国の論調は保革を問わず、安倍氏が米国の民主党・共和党の両政権と日米同盟を強化してきた実績を評価するものが目立つ。また、米中関係の緊張が高まるなか、ポスト安倍の日本が米国との関係をどのように再構築するのかに強い関心が集まっている。
中国を意識した防衛の強化
米メディアの多くは、安倍首相の在任中の功罪を論じる中で、特にトランプ時代の「日米同盟の深化」を軸に論じている。その人物評も、「トランプ大統領との良好な関係を築いた」(米『ワシントン・ポスト』紙社説)、「トランプ大統領の元側近であるスティーブ・バノン氏をして、『(国家主義的思想を持つ)安倍首相は、トランプ大統領登場前からのトランプだった』と言わしめた」(『ワシントン・ポスト』紙コラムニストのウィリアム・ペセック氏)など、トランプ政権との良好な関係を築いたことが、安倍首相の功績であったとの見立てが多い。
日米同盟の発展の具体例としては、中国を意識した防衛関係の増進が挙げられているのが注目される。『ワシントン・ポスト』紙は、「国防面で(従来と比較して)強い姿勢を示した」と評価する。米評論サイト「プロジェクト・シンジケート」に寄稿した英ジャーナリストのビル・エモット氏は、「インドとの防衛における関係強化」を安倍政権の功績として論じる一方で、安倍氏の国家主義的傾向が、パートナーである韓国との関係を悪化させたと指摘した。
評価高いアベノミクス
安倍首相の評価が特に高いのが、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を組み合わせた経済政策の「アベノミクス」だ。米CNNは、「アベノミクスが掲げる政策ミックスが世界的に採用されるようになった」として、安倍氏の先駆けの決断に歴史的な意義があったことを伝えた。
しかし、米経済専門局のCNBCは「アベノミクスは大成功でも大失敗でもなかった」と、功罪相半ばするとの見方を報じている。
「安部氏の決定が世界を変えた」
一方、リベラル系の米ニュース解説サイトVoxは、「安倍氏の決定が日本と世界を変えた」と論じ、「安倍首相は、内向きな日本が挑戦を受けて立てる存在にした」と称えた。
また、米政治学者のマイケル・グリーン氏も米『タイム』誌に対し、「安倍氏は、日本が世界をリードできることを示した」と語るなど、全般的に好意的だ。「安倍氏は、米国式のスローガン政治を実行して成功した」(保守派政策アナリストのマイケル・オースリン氏)との声もある。
念願の改憲は達成できなかったものの、「戦後レジームの清算に成功した」(オースリン氏)、「移民労働者の受け入れを決断した」(『ワシントン・ポスト』紙)、「新型コロナウイルス対応で、死者数を抑制できた」(エモット氏)など、全体的には実行力のある指導者であったとの評が多い。
一方で、「ナショナリズム色が強かった」(『ワシントン・ポスト』紙)、「女性活躍推進の成果が不十分であった」(同)、「少子高齢化に歯止めがかけられなかった」(同)、「トランプ大統領の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)離脱を防ぐことができなかった」(ペセック氏)、「コロナ対応で国民との対話に失敗した」(エモット氏)など、否定的な評価も少なくない。
次の首相は米国の対中政策にも影響
ポスト安倍の日本の政権については、「近未来的には安倍路線が継承される」(CNN)との見解が共有されている。中国との関係が悪化する米国にとっての大きな注目点は、後継者の対中国政策だ。エモット氏はこの面において、河野太郎防衛相、菅義偉官房長官、石破茂衆議院議員、岸田文雄衆議院議員などの有力後継者候補の誰が首相に選出されても、中国をにらんだ防衛力強化を推進してゆくだろうとの予想を示した。
他方、オースリン氏は、「ポスト安倍の政局が安定せず、日本の政治がマヒする」ことに懸念を表明するなど、対中関係をにらんで米国にとっての日本の重要性が増していることを示唆している。
このように、米国から見た安倍政権は、経済政策の「手本」を米国に示したこと、また対中同盟強化などで、貢献度が大きい存在であった。 後継首相は米国の対中政策にも影響力を及ぼすため、米メディアはポスト安倍の日本の政局を注視している。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)