借金まみれで始まった米金利上昇という「地雷」=大堀達也 偽りの世界好景気
「世界経済は一見好調に映るが、問題が起きるとすれば資産価格の調整だ」。三菱UFJ銀行の鈴木敏之シニアマーケットエコノミストは警鐘を鳴らす。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も8月のジャクソンホール会議で、「過去に景気後退に陥った過程では、インフレよりも金融市場の行き過ぎが不安定要因だった」と指摘し、過熱した市場に注意する必要があると示唆した。
鈴木氏は、資産の中でも「株式」が抱えるリスクの一つとして、米エール大学のロバート・シラー教授が考案した「シラー景気循環調整後PER(株価収益率)」(CAPEレシオ)の水準を挙げる。CAPEレシオは、過去10年間の企業利益の平均値に物価変動を加味して株価の割高・割安を測る指標だ(図1)。
その推移を見ると金融危機との不気味な相関が浮かび上がる。1881年以降の同レシオの平均値から上方向に乖離(かいり)した(平均値から1σ(シグマ)上抜けた〈σは標準偏差=散らばり具合〉)、つまり株価が非常に割高な時期が4回あり、いずれも金融危機と重なっていた。いま、同レシオは再び急上昇し、過去の危機時に匹敵する高水準にある。危機の「下地」はすでに醸成されている可能性が高い。
一方で、FRBの断続的な利上げの影響が世界経済に影を落とし始めている。最も顕著なのが、金融機関や投資家がドルを調達する際の金利だ。ドル調達金利は9月末時点で3・1%と、リーマン・ショック時の水準(5・4%)に迫る(図2)。量的緩和政策で新興国になだれ込んだドル建て債務残高をさらに膨張させ、返済不能、債務不履行リスクを高めているのだ。
新興国の債務(非金融部門、中国除く)は2018年3月末時点で22兆ドル(約2500兆円)超と、過去10年でほぼ2倍に膨らんだ。うちドル建て債務も同2倍以上の3・7兆ドルに増えた。
ドル建て債務の借り換えの際、金利が上乗せされるだけでなく、FRBの国債買い入れ減額でドル不足に拍車がかかれば、新興国企業・政府の資金調達はいっそう厳しくなる。トルコやアルゼンチンなど一部新興国で始まっている通貨危機がさらに拡大する可能性は否定できない。
もう一つドル資金が向かった先が米国内の社債である。米国では08年に5・5兆ドルだった社債市場は、足元で9兆ドルに拡大した。
実は、債務(債券発行)残高の増加は世界的な現象だ。国際通貨基金(IMF)によれば、16年の民間・公的部門を含めた世界債務残高は164兆ドルと世界総生産(GDP)の2・3倍の規模に達している。
つまり、低金利を前提とした過剰債務状態のまま、金利上昇局面を迎えたわけだ。米国内でも、今後借り換えがきかず、資金繰りに窮する家計や企業が続出する可能性が高い。
世界全体が借金まみれで始まった基軸通貨ドルの金利上昇──。リーマン・ショック級の危機に対応するだけの余力はどこにもない。
(大堀達也・編集部)