経済・企業日本経済総予測2019

ホントに増えるの?消費税 複雑怪奇な軽減税率 5%還元は誰のため=坂田拓也

    現金決済の飲食店は少なくない(都内の串カツ田中)
    現金決済の飲食店は少なくない(都内の串カツ田中)

     東京・新橋の立ち飲み店。注文するたびに現金で精算する女性店主は、消費増税やその対策について顔をしかめた。

    「ウチはレジがなく、計算しやすいように100円単位で値段を付けているので、増税分の2%だけ上げるのは無理。100円上げるか、料理の量を減らすしかない。キャッシュレスなんてできっこない」《日本経済総予測2019》

    軽減税率Q&Aは102問

     安倍晋三首相が10月15日に消費増税を明言した後、「軽減税率」「ポイント還元」「商品券」と、増税対策が次々と打ち出されているが、小売店や飲食店では困惑や反発は広がるばかり。飲食料品の税率を8%に据え置く軽減税率の実施は早々に決まったが、歓迎する声ばかりではない。

     東京・練馬区などで生鮮食品店を4店営業するスーパー・アキダイ。店頭に並ぶ生鮮食品は軽減税率の対象だが、秋葉弘道社長はこう話す。

    「全体が10%に上がるので、家計の出費は増える。日常品を買い控えれば、ウチも厳しくなる」

     軽減税率は複雑怪奇との批判もある。スーパーで飲食料品と共に並ぶお酒やペットフードは対象外。「みりん風調味料」は対象だが、酒税法で酒類に当たる「みりん」は対象外。店内で食べれば10%だが、持ち帰れば8%だ。

    「国税庁が公式サイトに掲載している軽減税率の解説(Q&A)の問答数は102問に達する。まるでクイズ」(地銀幹部)

     クレジットカードや電子マネーを使えば、2%をポイント還元する9カ月間限定の対策は、キャッシュレス決済の普及という目的もある。11月半ばに、首相が還元率を「5%に引き上げる」と発言して、混乱に拍車を掛けた。

     東京・大田区を中心に3店展開する衣料品店。数百円からの格安衣料が並ぶこの店はクレジットカードが使えるが、現金払いに5%の独自ポイントを付けているため、現金払いが90%を占める。

    「店が負担するカード決済手数料は3%台後半と高く、その分、現金払いにポイントを付けてきた。政府案は、顧客にポイントが還元されるだけで店にメリットはないが、決めるのは客。これでキャッシュレス決済が増えるだろうから対応するしかない」(同社社長)

     スーパー・アキダイは、11月末に店長会議を開いてキャッシュレス決済の導入を検討したが、答えは出なかった。

    「1円、2円の値付けで必死なのに、3%の手数料を取られれば利益が出なくなる。毎日、現金で売って現金で仕入れているので、カード決済となれば、資金繰りが圧迫される。しかし、キャッシュレス決済を導入しなければ、客が他店に流れてしまう」(前出・秋葉社長)

     ポイント還元策は痛税感の緩和や低所得者救済など、増税対策の本来の目的とは掛け離れようとしている。

    「還元対象を中小企業の店舗に限る案が決まれば、牛丼屋、スーパー、ファミレスなどは経営母体が大企業のため対象外になる。一方で、個人経営の高級服飾店で10万円のスーツを購入すれば、5000円が還元されることになる」(前出・地銀幹部)

    サプライズ増税延期

     クレジットカード業界は、「ポイント還元するシステム構築の負担」に加え、政府が決済手数料の上限設定を求めたことに反発したが、安倍首相が5%還元を口にして風向きが一変した。

    「還元率が5%まで上がれば、キャッシュレスが一気に進む。中小店舗の加盟を増やせるし、5%還元をやめた途端に売り上げが急減するので、政府はそのまま続けるか、代替策を取らざるを得ない、という根拠なき期待が高まった」(業界コンサルタント)

     中小企業を翻弄(ほんろう)している増税対策は、歯止めが利かなくなっている。

    「今回こそ増税を果たしたい財務省。増税に乗じてキャッシュレス普及を図る経済産業省。何よりも19年の選挙へ向けた安倍政権のばらまき……同床異夢で増税対策が打ち出され、増税効果が消し飛ぶ」(証券エコノミスト)

    貴社は消費増税に備えて準備を行っていますか。
    貴社は消費増税に備えて準備を行っていますか。

     東京商工リサーチが10月半ばに公表した「消費増税に関するアンケート」の結果が、反響を呼んでいる。増税が1年後に迫ったにもかかわらず、6627社の中小企業の実に6割が、増税に対して「準備していない」と回答したのだ(図)。

    「増税実施を信じていない面もあるが、中小企業は人手不足や資金の問題が深刻で、積極的に準備する余裕がない」(原田三寛・東京商工リサーチ情報部部長)

     また、現在も消費増税ができる環境ではないという声は多い。「前回8%に上がった後、来客が日曜日の特売日に集中して、平日の売り上げが落ちるようになった。この状態は今も続き、8%に上げる前の消費水準に戻っていない」(前出・秋葉社長)。増税対策は問題ないという大手外食チェーンの担当者も、「本当に増税するかどうか?」と、実は疑心暗鬼だ。

     経済ジャーナリストの荻原博子氏はきっぱり、こう言い切る。

    「総裁選で地方票が石破(茂)元自民党幹事長に流れ、沖縄では選挙3連敗で、安倍首相は地方の支持を失っている。増税は地方のほうが打撃になるため、選挙を考えれば増税できるはずがない。19年の選挙の前に、増税延期のサプライズを演出するつもりだと思う」

    (坂田拓也・ライター)

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